愛知室内オーケストラ 第59回定期演奏会

 プログラムが発表されたときからとても楽しみにしていた演奏会。それはひとえに(若手ヴァイオリニストとして以前から注目している)「石上真由子さんがアルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲を弾く」という好機を逃してはならない、という強い思いなのであったが、その演奏への期待は想定を遥かに超える音楽的充実感でもって叶えられた。それは作品の持つヘヴィーなテーマ、ヘヴィーな音楽世界を一手に背負う責任を担い、それを完遂したソリストの勝利でもあり、彼女とともに作品の世界を構築し、それを完全に近い形で達成した愛知室内オーケストラ、そして統率した指揮者である小林資典さんの勝利でもあった。更に言えば、第1楽章11小節目以降のコントラバスの重要なソロ(席次表によると池松宏さんが担当)が、曲のリチュアルな性格を如実に表現していたことで、この日の演奏が勝利に終わることを予感できた。セリーだったりコラージュだったり舞曲だったり、走馬燈のように登場しては消える幾多のモティーフが丁寧かつ対等に扱われ、それによってアルバン・ベルクの音楽が流れを損なうことなく表現されていた、という事実が素晴らしかった。音は触ることができないものだけど、そのことが手に取るようにわかった。これはとても貴重な体験であった。
 この体験はベルク作品以外でも同様であった。シェーンベルクのワルツ集は「こんな作品があったのか!」というサプライズであった(ヴィオラの加納明美さんGJ!)し、休憩後のシューベルトモーツァルトの2曲も、音楽自体の持つ性格を十分に表現していた。これは小林さん率いるオーケストラ団員一同の水準の高さ故であろう。愛知室内管は先月、日本オーケストラ連盟の準会員となった、とのことで今後の活動に期待したいところであります。


Program Note;
Date: July 1, 2023
Venue: Shirakawa Hall, Nagoya
1. Schönberg: Walzer für Streichorchester
2. Berg: Violinkonzert
3. Schubert: Overture im Italienischen Stile D.590
4. Mozart: Sinfonie D-Dur Köchelverzeichnis 385 „Haffner-Sinfonie“
Violin: Mayuko Ishigami
Conductor: Motonori Kobayashi
Aichi Chamber Orchestra

 

 

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クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団

 クラウス・マケラは26歳にしてオスロ・フィルとパリ管弦楽団の要職に就き、更には世界最高のオーケストラの一つ、オランダの王立コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者となることが予定され…などの能書きはともかく、この日眼前に現れたマケラの、神々しいまでの圧倒的存在感は何なのだ。まずステージ上の立ち居振る舞い。曲を始める前に肩幅くらいに開脚して指揮台上で構える、あのポーズからして五輪代表の体操選手のように美しい。その後の指揮台上の動きも流麗で、舞踊的ともいいたくなる。その華麗さを象徴していたのはプログラム後半「春の祭典」第1部。「大地の踊り」の喧騒からの突然の静寂。そのときマケラは右腕を高く挙げ、手にしていた指揮棒は高く天を指していた。え!?なんかロックスターみたい!あんたフレディ・マーキュリーかよ!それともマイケル・ジャクソンですか!? こんな姿を、クラシック音楽のコンサートで見せつけられるとは思いもしなかった。

 そんなクラウス・マケラの指揮者としての仕事はどうだったか。この日のプログラムは20世紀前半のフランス音楽が並んだ、まさに「100年前のパリのコンサートホールでどんな音楽が鳴っていたか」的なものであったが、指揮者とパリ管弦楽団はその時代の特徴を見事に描き、表現していた。最初の曲であるドビュッシー「海」を特徴づける音楽的明暗の表現、「闇」から「光」、そして逆に「光」から「闇」へと移ろう音楽の、その明暗のコントラストは出色であった(マケラが来日中に撮影し、SNSで公開した画像を想起させた)し、それ以降の楽曲(ラヴェルボレロ」とストラヴィンスキー春の祭典」)においても大編成での楽器の音が混ざり合う、その色彩の妙を愉しむことができた。

 だが、マケラの指揮者としての特徴は、別のところにあるように感じられた。ひとつは各パートの奏でる音、そのひとつひとつがどれも明瞭に耳に届くし、そしてどの音にも音楽的意味が感じられたこと。一音一音がとても丁寧で、なんらかのニュアンスが込められたり、一ひねりが加えられたりしているのだ。まるで一手ずつ慎重に駒を指していく棋士のように、熟考を重ねながら音が繰り出されていく。結果として重々しいサウンドにはならないのだが、その慎重な音楽作りが実に若手らしくないというか、ベテランでもここまで丁寧にやらないだろうなあ、というくらいのレベル。

 もうひとつ。マケラはスコアに書かれた音の数々を実に形よくデザインし、立体的な交響楽に仕立てる能力に秀でているように感じた。作曲家の脳内の設計図を楽譜にしたスコアがそのまま音になり、さらにそれが美しいフォルムとして造形されている。これはまさに優秀なデザイナーの手によって生み出された工業デザインのごとき世界観だ。

 以上二つの特性が一番発揮されていたのは「ボレロ」。おなじメロディーが何の変形もなく最後まで続いていく作品。代わりに変化するのは音色(=楽器)、そしてダイナミックス。なのだが、そのなかでもマケラはサキソフォーンだったりトロンボーンだったり、各シーンでちょっとずつニュアンスを変えていき、結果として音楽表現の「幅」に広がりを与えていた。一方楽曲のフォルムという点においては、スネアドラムと同じリズムを刻む楽器が、とても適切かつクリアで、かつ「いい音」で聴こえてきた(とくにファゴットとホルンが吹いていた場面)。これにより「ボレロ」の曲の構造が明確となり、音楽的造形美が生み出されていた。

 ドビュッシーの「海」に話を戻す。第3楽章後半のクライマックスで、いろんな音が束になって押し寄せてくる、その瞬間のとても輝かしい響きを耳にし、なぜか「ああ、彼がいればクラシック音楽もあと数十年は滅びることなく生き残るかもしれないな…」と思ってしまい、そして泣けてきた。まさかこの曲で…と思いつつ、人生も第4コーナーに差し掛かると、そんなこともあるかもな。。。

 

Program Note;

Date: October 23, 2022

Venue: The Festival Hall, Osaka

1. Debussy: La Mer

2. Ravel: Boléro

3. Stravinsky: Le Sacre du printemps

4. (Encore) Sibelius: Valse Triste (in memory of Philippe Aïche)

武生国際音楽祭 1日目(9/11)と2日目(9/12)

 毎年9月に越前市で開かれている「武生国際音楽祭」、今年はコロナ禍を踏まえて(他の夏の音楽祭同様)例年と異なる形態での開催を余儀なくされました。若手作曲家の新作を紹介する「新しい地平」シリーズなどの企画コンサート、そして作曲ワークショップやマスタークラスが無くなり、アウトリーチも控えめ。コンサート参加アーティストもソリスト6名と、ことしは例年と比較して小規模なフェスティバルとなりました。それでも開催したことに音楽祭関係者たちの熱意を感じ、今年も越前市文化センターに足を運ぶことにしました。
 感染対策は行き届いてましたね。観客はアルコールでの手の消毒とサーモグラフィによる検温ののち入場、チケットは客みずから半券をもぎって箱に入れる、というスタイルでした。トイレの入退場の際にはスタッフからアルコール消毒を促されます。あと足で踏むと消毒液が出る仕組みになってるデバイスがロビーに置いてありましたが、作りがDIYっぽいというか、ニ○リかコ○リかどこかのホームセンターから部品を調達して仕立てた感じがして、ついマジマジと眺めてしまいましいた。あと音楽監督細川俊夫氏を含め、出演者全員が事前にPCR検査を受けた(そして結果はすべて陰性。これ肝心)ことを音楽監督自ら挨拶されたときに仰ってました。うーん欧州レベル。そしてホール内は間隔を詰めて座ることがないように多くのイスに布切れを被せていました。それでも何となくの雑感ですが、例年の音楽祭よりお客さんは入っているような気がしました。今年は地元の方々の関心がすごく高かったのでは、と推察。
 コンサートの演奏について。1日目(9/11)と2日目(9/12)のプログラムは異なるものの、どちらも古典と20世紀作品がミックスされた武生ではお馴染みのプログラムビルディングでした。このプログラムの組み方ってシェーンベルクたちが約100年前に立ち上げた「私的演奏協会」っぽいなあ、、、そういえば今年はその演奏会のためにアレンジされた室内楽版のマーラー4番をベルリンフィルがネット中継してたなあ、、、あれは感動したなあ、、、などとぼんやり考えながらソリストたちの演奏に耳を傾けておりました。
 ヴァイオリニストの山根一仁毛利文香チェリスト岡本侑也水野優也、そしてピアニストの北村朋幹と、5人の演奏家たちがときにソロで、ときにはデュオで出演してましたが、1曲づつ奏者が入れ替わり立ち代わりして演奏するので、山根さんと毛利さんの(姿勢を含めた)弾き方の違い、岡本さんと水野さんの(楽器を含めた)音の違いなどをダイレクトに感じることが出来て、そこが面白かったですね。毛利さん、ベートーヴェンソナタ「作品30の2」をあまりに情熱的に演奏されてて圧倒されたのですが、パンフレットを見るとミハエラ・マルティンに師事されているとか。なるほど、と納得してしまいました。岡本さんと北村さんのベートーヴェン「作品102の1」は、作曲家後期の内省的な作風を見事に捉えていて、とても満足。山根さんは1日目のバッハBWV1004と2日目のベリオ「セクエンツァⅧ」、どちらもクールな中に熱いものを感じさせるパフォーマンスで見事でした。そして水野さんとのラヴェルのデュオ。あの曲はいつ聴いても「何コレ!?」と唖然とする異形の名曲なのですが、昨日の演奏もまさにソレでした。スパークするような音や、かするような音も交え、いろんな音がとっ絡まってできる音楽。2人の奏者は音楽的に絡んでいるのか、絡んでいないのか。居所を求めて音が彷徨ってるかのような、そんな様子を眺めているうちに曲が終わってしまった。そんな感じ。面白かった。
 そして最後に。2日目にベートーヴェンを2曲演奏した伊藤恵さんが、休憩後にマイクを持って挨拶されたときの言葉。「武生に来れて本当に良かった!」という一言に感動いたしました。

 

(Program Note 1)

The 31st Takefu International Music Festival

Venue: Echizen City Cultural Centre

Date: September 11, 2020

Violin: Kazuhito Yamane*1 Fumika Mohri*2

Piano: Tomoki Kitamura*3

Cello: Yuya Mizuno*4 Yuya Okamoto*5

1. J.S. Bach: Cello Suite No.1 in G Major BWV1007 *4

2. Toshio Hosokawa: Melodia Ⅱ*3

3. J.S. Bach: Partita for Violin No.2 in D minor BWV1004 *1

4. J.S. Bach: Violin Sonata No.3 in C Major BWV1005 *2

5. Toshio Hosokawa: Etude Ⅳ/Ⅴ/Ⅵ *3

6. J.S. Bach: Cello Suite No.5 in c minor BWV1011 *5

(Program Note 2)

The 31st Takefu International Music Festival

Venue: Echizen City Cultural Centre

Date: September 12, 2020

Piano: Kei Itoh*1 Tomoki Kitamura*2

Violin: Kazuhito Yamane*3 Fumika Mohri*4

Cello: Yuya Okamoto*5 Yuya Mizuno*6 

1. Beethoven: Für Elise WoO 59 *1

2. Beethoven: Piano Sonata No.14 in c-sharp minor Op.27-2 *1 

3. Luciano Berio: Sequenza Ⅷ *3

4. Beethoven: Violin Sonata No.7 in c minor Op.30-2 *2 *4

5. Toshio Hosokawa: Small Chant *5

6. Beethoven: Cello Sonata No.4 in C Major Op.102-1 *2 *5

7. Webern: Four Pieces for violin and piano Op.7 *2 *4

8. Ravel: Sonata for Violin and Cello *3 *6

ワーナークラシックスの膨大な音源から、更に色々と聴いてみて選んでみた(その2)

その1」からの続きであります……

 

⑥ 役者揃いも揃ったり。「トゥーランドット」歴史的録音

ビルギット・ニルソンレナータ・スコット(ソプラノ)フランココレッリ、アンジェロ・メルクリアーリ(テノール)ボナルド・ジャイオッティ(バス)モリナーリ=プラデッリ指揮ローマ歌劇場管&合唱団 他 プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」 【旧EMI】

 

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(1965年 ローマ歌劇場にて収録)


 劇中のアリア「誰も寝てはならぬ」がとりわけ有名な「トゥーランドット」です。求婚した者に謎をふっかけ解答できなければ即斬首、という非情をくりかえす姫の心を、異国からやってきた若者が愛の力で溶かしていく、というストーリーは作曲されたのが第1次世界大戦後の1920年代だということを考慮すれば、暴力と闘争に満ちた世界を愛で変えていこう、というロマンティックな願望の発露とも思えなくもありません。またプッチーニがこのオペラに付けた音楽は不協和音が頻出する刺激的なもので、当時のアヴァンギャルドな作曲家のスタイルを取り入れたものだ、とも言われることがあります。そんななかで「誰も寝てはならぬ」の甘美な旋律がふわ~っと出てくると、それがものすごく効果的にハマるのでしょう。
 このオペラは圧倒的に力強い高音域を有する女声(トゥーランドット)、圧倒的に輝かしい声を持つテノール(カラフ)、そして圧倒的にエモーショナルな女声(リュー)を必要とします。劇に出てくる「3つの謎」ではないですが、その「3つの条件」を満たす名盤として知られるのがこのモリナーリ=プラデッリ盤。第2幕のアリア「この宮殿の中で」はニルソンの声にコレッリの声が乗っかって、そこからさらにニルソンが追い打ちをかける、というところがいつ聞いてもたまりません。またプッチーニ的感傷的自己犠牲たるリューを演じるレナータ・スコットも「氷のような姫君も」などの聴かせどころで、彼女の個性を存分に発揮しています。

⑦ 渋いアスペレンの「平均律

ボブ・ファン・アスペレン(チェンバロ) バッハ:平均律クラヴィーア曲集 【旧EMI】

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(1987年2月、同年4月 ハンブルクにて収録)


アスペレンのチェンバロはいくつかの録音で耳にしているのですが、この「平均律」はワーナー音源を探訪していく中で今回初めて聴きました。冒頭から、派手さはないもののバッハの記した音符を着実に音に刻んでいく作業の誠実さに惹かれていきました。各楽曲のキャラクターが淀みなく表現されていて、それが違和感なく胸にすっと入ってくる、その感覚が心地よいです。アスペレンのバッハは「イギリス組曲」もいいですね。レーベルは「鰤箱」との俗称で知られるブリリアント・クラシックスですが。


⑧ 華麗なるスコット・ロスのバッハ

スコット・ロスチェンバロ) バッハ:パルティータ(全6曲) (「バッハ鍵盤作品録音集」から) 【ERATO】(→録音データなど詳細は公式サイトへ)

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 スコット・ロス(1951年生、1989年没)のチェンバロ演奏は、ひとことで言えば「華麗」。芳香を放ちながら音がエネルギーを伴って現れるような、そんな輝かしさを持っています。この「パルティータ」はロスの演奏の特徴が一番現れている録音だと思います。これを初発時に聴いた私は、「どうしてこんなに美しいんだろう」「こんな風にバッハを弾いてもいいんだあ」とすっかり魅了されてしまったことを憶えています。彼がHIV感染症で亡くなったことを知ったのはこれを聴く前だったか後だったか定かではありませんが、それを聞いたときはかなりショックだったのも憶えています。

⑨ これが録音に遺っていて本当に良かった。日本フィルの歴史的録音

潮田益子(ヴァイオリン)小澤征爾指揮日本フィル ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 (「エリザベート王妃国際音楽コンクールの受賞者たち」から) 【旧EMI】

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(1971年6月20日&21日 杉並公会堂にて収録)


 潮田益子(1942年生、2013年没)さんは生前サイトウ・キネン・オーケストラの舞台には高頻度で登場されておられたので、そこでの活躍が個人的に強く印象に残っているのですが、エリザベート王妃国際(1963年、第5位)チャイコフスキーコンクール(1966年、第2位)などの輝かしい受賞歴を持つと共に、国内外でソリストとしても活躍されておられました。そんな時期に英EMIのスタッフが来日して杉並公会堂で行われた録音がこれです。潮田さんのヴァイオリンはピンとした張りがあって堂々とオケと渡り合っています。そして共演の日本フィルも実に素晴らしい。小澤さんの手腕もあるのでしょうが、いい響きしてますし輝いてます。この時期の同フィルの録音がEMIにあってホントによかった、と思います。

⑩ チェコスロバキア吹奏楽団によるスーザのマーチ

ルドルフ・ウルバネク指揮チェコスロバキア・ブラス・オーケストラ スーザ:マーチ集 【Nonesuch】

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 共産党時代のチェコスロバキア吹奏楽団によるスーザのマーチ、しかもレーベルがアメリカのノンサッチ、というなんかミステリアスな録音です。しかし演奏はいいですよ。各奏者の音の発音がしっかりしていて、それが積み重なってシンフォニックな仕上がりになってます。一音一音堅実な音作りで、ひところでいえば実にまじめなスーザ。でも楽しい!自然と笑顔になります。

ワーナークラシックスの膨大な音源から、更に色々と聴いてみて選んでみた(その1)

 新型コロナの自粛ムードの中、先日のエントリ(前編後編)を書き上げた勢いで、ワーナークラシックス扱いのアルバムをいろいろと探索し耳を傾けておりました。そんな中から、何か語ることができそうなものをここでダラダラと列挙していこうと思います。

 

  

① 歌もいいけど声もいい。「二刀流」シュトゥッツマンの真骨頂

ナタリー・シュトゥッツマン(コントラルト&指揮)オルフェオ55 「Heroes From The Shadows」 【ERATO】(→録音データは公式サイトで)

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 シュトゥッツマンは12年前に一度生で聴いています。当時すでに深みある豊かな声と特徴ある低音の魅力で世界的に知られた存在でしたが、そんな彼女が来日公演で初めて指揮をする、しかも歌いながら、ということで遠路はるばる新幹線から京浜東北線、そして常磐線を乗り継いで(そのころ上野東京ラインはなかった)水戸芸術館まで足を運んだのでした。そのコンサート、声はもちろん、それ以上に強いインパクトを与えたのは彼女の指揮姿でした!四肢体幹、すなわち全身を駆使した躍動感あふれる指揮は、テンポを指示するというコンダクターとしての仕事の範疇をはるかに越えたものでした。モダンダンスのダンサーも斯くや!と心の中でツッコミ入れるほどの華麗な舞いっぷりに戸惑いを隠しきれず、もとい幻惑されてしまいました。「あなたはこの指揮姿でこれからやっていくおつもりなのですか…」と当時は正直心配になりましたが、その後シュトゥッツマンは自身でオーケストラ「オルフェオ55」を立ち上げるとともに、世界各地のオケへの客演の仕事も増えてます。以前ウェブラジオでアイルランド国立響を振ったシューマン交響曲、なかなか素晴らしかったです。
 このヘンデルのオペラ・アリア集、シュトゥッツマンならではの声自体の魅力に加えて感情表現力の高さで最後まで聴かせますし、指揮者としてもパッショネートな音楽作りで心をわしづかみにします。バロック・オペラってこんなにパワフルなんだ!と思わせる、熱い仕上がりになってます。

 

② ムーティ的表現で聴かせるヴィヴァルディ「四季」

フランゼッティ(ヴァイオリン)ムーティ指揮スカラ座管他 ヴィヴァルディ;「四季」他 【旧EMI】

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 ミラノ・スカラ座の座付オケは、オペラ公演以外にも「スカラ・フィルハーモニー」を名乗りオーケストラ・コンサートを時々行っています。そこではヴェルディプッチーニとは違う毛色の音楽、たとえばバルトーク管弦楽のための協奏曲」のような曲をやったりするわけで、そんなときのスカラ・フィルの音楽がなかなか新鮮に感じるのであります。今年秋に来日予定でしたが、例によって新型コロナウイルス感染症の影響で中止となったのは残念なことでした。
 ヴィヴァルディの「四季」といえば、イ・ムジチによる複数の録音を始め(一つ選ぶなら、やっぱりフェリックス・アーヨ独奏盤かな)たくさん出てます。最近はデフォルメを効かせた刺激的なアプローチで訴える演奏も多いですね(例えば佐藤俊介の録音)。まあるいものから尖ったものまで、どっちがいい悪いではなく、さまざまな解釈の演奏を楽しむことができる、という状況を愉しみたいものです。このスカラ座盤は、一聴して保守的ではありますが、ムーティ的な厳格さと、ストリングスによるカンタービレの美しさがお互い邪魔せずうまく混ざり合っていて、それが独特の美点となっています。「夏」第3楽章など、各声部の音の絡みが鮮やかでシンフォニックですらありますね。

 

③ ああ、地に平和あれ。ヴォーン・ウィリアムズの合唱曲。

イヴォンヌ・ケニー(ソプラノ)フィリップ・ラングリッジ(テノールブリン・ターフェルバリトン)ヒコックス指揮ロンドン響&合唱団 ヴォーン・ウィリアムズ:ドナ・ノビス・パーチェム、聖なる市民 【旧EMI】

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(1992年3月28-30日 アビー・ロード第1スタジオにて収録 CDC 7 54788 2)


 レイフ(ラルフ)・ヴォーン・ウィリアムズ(1872年生、1958年没)は20世紀イギリスを代表する交響曲作家です。生前彼は英国民謡やキャロルを研究していて、その影響が歌謡性に富む旋律となって彼の音楽的個性を形成しているのですが、それでいてダークかつ不確実な雰囲気を感じさせる作品も多く、それらを作曲当時の混沌とした世界情勢の反映と見る向きもあります。「ドナ・ノビス・パーチェム」と「聖なる市民」はともに第二次世界大戦前に書かれた作品。前者は作品の各所でリフレインされる「Dona Nobis Pacem」(地に平和あれ)のフレーズが印象的、後者は聖書のヨハネ黙示録を題材ににしており、両作品とも第一次大戦に従軍した作曲家の個人的体験が創作の原動力になっていると言われています。
 この演奏ではやはり、ブリン・ターフェルの際だった存在感について触れないわけにはいきません。とくに「聖なる市民」での、不穏な内容のテキストをワンフレーズ歌うだけで、そのただならぬ不吉さが伝わってくる表現力には驚かされます。しかしこの演奏での真の勝利者は、終始ダイナミックな音楽の流れを作り出した合唱団と、それを指揮するリチャード・ヒコックス(1948年生、2008年没)です。彼の突然の訃報を聞いたときは真に驚かされたものですが、息子アダムも父の後を追って指揮者になったようなので、これからが楽しみです。

 

④ ハンガリアン・ラプソディ ♪マジャール~~うううう~~

シフラ(ピアノ) リスト:ハンガリー狂詩曲集【旧EMI】(→録音データは公式サイトで)

 

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 私は若かりし頃、研究室で来る日も来る日も年がら年中PCR、という日々を送っていました。今や「PCR」なるアルファベット三文字を知らない人が居ない日が来るとは当時の私には知るよしもないのですが、、、そんなある日、教授から「ハンガリーから留学生が来たから面倒見てほしい」と言われました。そうやって紹介された彼はそのバイタリティを実験でなく美人秘書を口説くことで示したため、その当事者から間接的に愚痴を聞かされる羽目になるのですけど、、、それはともかく、そのハンガリアンがある日突然、「お前プスカシュを知ってるか?」と聞いてきました。プスカシュという人物について皆目わからなかった私が「誰?」と尋ねると、1950年代に「マジック・マジャール」なるハンガリー・サッカー黄金時代があったこと、その中でとりわけ輝いていた存在だったのがフェレンツ・プスカシュ(1927年生、2006年没)だったことを、熱く語り出したのですが、結局そのときは彼の語気の強さに圧倒されただけで終わりました。やがてその留学生は帰国していったのですが、しばらく経って足を運んだ西京極でキングカズを観てサッカーに夢中になっていった私は、急速にサッカーに関する知識を吸収していきました。その過程でプスカシュの偉大さも知ることとなります。ワールドカップの舞台での活躍で脚光を浴びたプスカシュは、ハンガリー動乱をきっかけに亡命し、キャリアの後半をレアル・マドリードで過ごすことになります。スペインのビッグクラブのレジェンドとなった彼の功績は、ベスト・ゴール賞を表彰する「プスカシュ賞」にその名を遺すこととなりました。
 そんなプスカシュと同時期に活躍したハンガリーのピアニスト、ジョルジュ・シフラ1921年生、1994年没)もプスカシュ同様、栄光と苦難がない交ぜになった演奏家人生を送りました。彼も20世紀中欧を襲った戦争と共産化の波に呑まれながらも、並外れたテクニックで自らの人生を切り開いていき、後半生は西欧に帰化して生涯を終えた、という点でプスカシュと似ています。
 シフラといえば一般的に「テクニシャン」として知られているわけですが、ただの「テクニシャン」の一言では片づけられない音楽家としての魅力がシフラにはあると思います。録音で残されたトランスクリプションの数々に耳を傾けてみると、音楽の持つキャラクターを情感を込めて余すところなく伝える「語り口のうまさ」に舌を巻きます。このハンガリー舞曲集でもシフラの鍵盤の語りは変幻自在。一気呵成にまくしたてたかと思うと、優しい語り口で魅了したり…。まさに噺家か講談師の名人芸を連想させる、見事なストーリーテラーぶり。最後まで聞き漏らさず聴かなければ損しちゃう!と思わせてくれます。

 

⑤ まさに「ギター音楽の展望」たるアルバム。

 トゥリビオ・サントス、オスカル・カセレス、コンラート・ラゴスニク、グラシエラ・ポンポニオ、ホルヘ・マルティネス・サラテバルバラ・ポラーシェク、レオ・ブローウェル、マリア・ルイサ・アニード、ベート・ダベサック、ベート・ダベサック(ギター) 「ギター音楽の展望」 【ERATO】(→収録曲など詳細は公式サイトへ)

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 ワーナーのアルバムをいろいろと探しているうちに見つけたこのアルバム、とてもいいですね。いいアルバム過ぎて、私はこのアルバムの存在を今まで知らずに過ごしていたことを後悔しました。エゴサーチしてみると「ギター音楽の展望」、オリジナルタイトルだと「Panorama de la Guitare」なる題名の連作アルバムは、ギター愛好家のあいだでも名盤として広く認知されていたものであったようです。
 このアルバムは各ギタリストらによる魅力的な演奏の数々、ギターの音をリアルに捉えた録音クオリティの高さ、そして収録楽曲の素晴らしさと本当に「名曲・名演・名録音」の三拍子が揃った見事な出来映えです。クラシックのギター音楽に明るくない方でも、きっとお気に入りのトラックが見つかるはずです。それはヴィラ=ロボスでしょうか、バッハでしょうか、パーセルでしょうか、それともジョリヴェになるかもしれません。私は誠にまことにベタですが、「禁じられた遊び」ですけど、それ以外でしたらモレノ=トローバ作品のギター・デュオでしょうか。

ワーナークラシックスの膨大な音源から、なんとなく50タイトル選んでみた(後編)

前編のつづきであります。。。

 

 

【旧EMI Classics】


㉖ ガブリーロフ(ピアノ)ムーティ指揮フィルハーモニア管、ラトル指揮ロンドン響 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番、プロコフィエフ:同第1番、バラキレフ:イスラメイ、プロコフィエフ:悪魔的暗示

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 昨年生で聴いたガブリーロフ…。なんか人間でない特殊能力の持ち主みたく、異形のピアニストになってましたね。。。そう、「鬼滅の刃」の禰󠄀豆子のような感じ。鬼の形相で鍵盤をひっぱたいてました。あれは鬼の仕業ですよ。
 さてこのディスクでは1970年代、人間時代(?)のガブリーロフを拝むことができるのですが、チャイコフスキープロコフィエフもハイパーなテクニックと重厚なピアノの響きで聞き手を圧倒するという、まさに「ザ・ロシアのピアニスト」っぷりを発揮しています。この「なんとなく50選」を書くとき改めて聞き直したのですが、ほんと惚れ惚れしました。なおリンク先の最終トラック、プロコフィエフ「悪魔的暗示」は去年アンコールで聴けました。この曲に限って、若き日の(人間時代の?)ガブリーロフが一瞬垣間見えたような、技巧の鮮やかさを見せていましたね。


㉗ ムーティ指揮フィラデルフィア管 レスピーギ:ローマの松、ローマの泉、ローマの祭り

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 前述のチャイコフスキーでガブリーロフと共演したリッカルド・ムーティは、EMIに数多くのレコーディングを遺していますね。ムーティからひとつ何か、と思ったとき「アイーダ」は歌手がいいし「イワン雷帝」も好きだしどうしよう、、、と迷ったのですが、私の好きなローマ三部作を挙げておきます。名手揃いのフィラデルフィアの能力が全面開放され、極彩色でカラフルな管弦楽を堪能できます。ところで最近ウェブラジオでムーティシカゴ交響楽団を振った「ローマの松」を聴いたのですが、これがまたEMI盤と全然方向性が違う、まさにアダルトな「シカゴの音」で、それはそれで楽しかったです。動画で最後の方だけ観れますが、また何かの機会に全曲聴けるといいですね。


㉘ ボスコフスキー指揮ウィーン・ヨハン・シュトラウス管 スッペ、コムザーク、ツィーラーヨハン・シュトラウス二世、ヨーゼフ・シュトラウス、ランナー、ミレッカー:ワルツ、ポルカ、序曲、マーチ集

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 毎年元旦になると、普段クラシック音楽についてあーだこーだ言うばかりのツイッタラーだけでなく、内海桂子師匠までウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに言及してくださるので嬉しくなるわけですが、この新春恒例行事の初代指揮者がクレメンス・クラウスで、その次の指揮者を務めたのがウィリー・ボスコフスキー1906年生、1991年没)。ヴァイオリン片手に指揮するというヨハン・シュトラウスばりの指揮姿で知られました。
 私が大学を卒業して社会人になったとき、職場にクラシック音楽好きの先輩がひとり居ました。同好の士が現れたことは嬉しいことではありましたが、その先輩はブルックナーならクナ(クナッパーツブッシュ)かシューリヒト、ベートーヴェンブラームスならブルーノ・ワルターカラヤンリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」ならオッケー、という、クラヲタならピン!とくるでしょうが音楽評論家の宇野功芳氏レコメンドのCDをせっせと収集されてる方でした。その宇野フォロワーな方とウインナワルツは誰のがいい?みたいな話になると決まって、その宇野なお方は「クレメンス・クラウスはいいぞ。ボスコフスキーはダメだ」と仰るわけです。私の脳には宇野派的思想が徐々に刷り込まれていき、自然とボスコフスキーのディスクを好んで聴くことは無くなり、中古に売られていきました。
 それからずいぶん経ったある日、なんとなくウィーンフィルの映像が欲しくなってネットを漁っていたときにボスコフスキーの指揮姿が目に止まりました。宇野教の洗脳から徐々に解けつつあった私は「ああ、今みたいにラデツキー行進曲のとき指揮者が観客に向かって指揮しない、昔のニューイヤーコンサートが見たい……」とふと思い、そしてポチり。手元にやってきたDVDをトレイに載せてみると、ボスコフスキーもオケも実に(いい意味で)肩の力が抜けていて、映像と音から素直に音楽の楽しさが伝わってきました。そして今のように巨匠が入れ替わり立ち替わり指揮台に登りかしこまった演奏を聴かせるよりも、こっちの方がしっくり来る。やっぱりヨハン・シュトラウスの音楽が元々目指してるのはコッチだな、と確信したのです。
 でボスコフスキーですが、ここでセレクトしたのはスッペ「軽騎兵」序曲を収録したディスク。広島カープのファンにはお馴染みのこの作品、オリジナルをフルバージョンで聴くならコレですよ。

㉙ アルバン・ベルク四重奏団、ヴォルフガング・シュルツ(フルート)エルンスト・オッテンザマー(クラリネット)アロイス・ポッシュ(コントラバス)ハインツ・メジムーレツ(ピアノ)アルフレート・ミッターホーファー(ハルモニウム) ヨハン・シュトラウス二世とランナーの作品集

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 20世紀前半ウィーンで「私的音楽協会」という音楽協会が立ち上がりました。「音楽評論家立ち入り禁止」を謳う同会はドビュッシーラヴェルストラヴィンスキーといった同時代の音楽作品演奏を目的とした知的音楽サークルでしたが、マーラーヨハン・シュトラウスの曲も小編成に縮小された版を用いて演奏されていました。会の発起人シェーンベルクや、その弟子アルバン・ベルク、アントン・ウェーベルンの両氏も各自「私的音楽協会」のためにウインナワルツを編曲していて、この録音には彼らの編曲版が収録されてます。演奏は編曲者ベルクの名前を冠したアルバン・ベルク四重奏団と、ウィーン・フィルゆかりのメンバーたちです。いまやシュルツもオッテンザマーも故人となり、かわりに彼らの息子たちが父と同じ楽器で活躍していますね。
 さてこの「私的音楽協会」のために編曲された作品が、最近世界中で注目を浴びることとなりました。新型コロナウイルス感染症パンデミックにより、閉所密集による感染拡大を避けるため、という理由で世界中で(自粛であったり命令であったり各国で指示は異なるものの)演奏会が開催出来ない状況が現在も続いています。そんな中ベルリン・フィルは電撃的に例年5月1日に開催される「ヨーロッパ・コンサート」を団員たちのソーシャル・ディスタンシングに配慮しながら本拠地ベルリン・フィルハーモニーで無観客で行う、と発表しました。当日11時(現地時間、日本時間で18時)、この模様はベルリン・フィルの動画配信サイト「デジタル・コンサートホール」を通じ生中継されました。このときのプログラムのメインが、「私的音楽協会」向けに編曲されたマーラー交響曲第4番でした。同曲は本来「ヨーロッパ・コンサート」で演奏する筈だったので、どうしても組み込みたかったのでしょう。このチョイスにベルリン・フィルの「意地」を感じましたし、2メートル間隔の少人数の団員を前にしたキリル・ペトレンコの指揮が実に熱が籠もってましたね。目の前はコンサートマスター樫本大進ひとりなのに、まるでヴァイオリンの大群を操っているようにすら感じられる一瞬もありました。

㉚ アルバン・ベルク四重奏団 バルトーク弦楽四重奏曲(全6曲)

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 アルバン・ベルク四重奏団は先ずテルデックで、そしてEMIに移籍してからも多くの録音を遺してます。わたし個人的にカルテットでチェロ弾いたりすることがあるのですが、そのときたとえばベートーヴェン「ラズモフスキー第3番」で左手の運指が解らなくなったときは彼らの動画を参考にしたりすることがあります。ラズモの3番むずかしいんですよ…。で左手が決まっても、やっぱり弾けない……となって絶望してるわけですが(苦笑)。でこの「なんとなく50選」ではベートーヴェンでなく、バルトークを挙げます。バルトーク弦楽四重奏曲も、過去多くの団体が録音を遺していますが、アルバン・ベルクのが一番聴きやすい、というかギラギラしてないところが、却って独特の味になってると思います。
 


㉛ ラトル指揮バーミンガム市響他 シマノフスキスターバト・マーテル聖母マリア典礼交響曲第3番「夜の歌」 

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 サー・サイモン・ラトルは若いころからEMIクラシックの一押しアーティストとして活躍していましたが、このシマノフスキベルリン・フィルのボスになる前のバーミンガム時代のもの。「スターバト・マーテル」も「交響曲第3番」も、大編成のオーケストラによる鮮やかで官能的な色彩感と、音の圧力が印象的な作品。こういう曲を振らせるとラトルは上手いなあ、と思います。ラトルはバーミンガムでなくベルリン・フィルの演奏会で「春の祭典」を聴きましたが、いろんな楽器が放つ音がカオスなままでドン!とダイレクトにやってくる感じで、なかなか刺激的だったのを憶えてます。

 

㉜ マリス・ヤンソンス指揮オスロ・フィル シベリウス交響曲第1番、第2番、第3番、第5番他

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 あくまで、あくまで個人的印象なのですが、、、マリス・ヤンソンスて、若い頃のオスロ・フィル時代の印象が強すぎて、その後コンセルトヘボウやバイエルンの指揮者になっても私の中では「永遠の若者」のイメージのまんまだったんです。だから去年11月の訃報はショックでした。。。
 でそんなオスロ時代といえば、なんといってもチャイコフスキー交響曲全集がヤンソンスのベストレコーディングなのですが他レーベルですので、、、ここではシベリウスを。「第2番」は以前からのお気に入りだったのですが、今回改めて聴き直していくと、「第3番」がめっちゃいい演奏なんですよ。第2楽章のカンタービレは泣けますし、めまぐるしく音楽が流転していく第3楽章をこれほどまで克明かつ劇的に表現した演奏をわたし初めて聴きました。判を押したように「シベリウスならやっぱりベルグルンドだねえ」なんて言っててはいかんな、と思いました。

 

㉝ ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル シベリウス交響曲第5番、第6番、第7番

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 でベルグルンドのシベリウスです(爆)。改めて私が言及する必要もないのですが、パーヴォ・ベルグルンド(1929年生、2012年没)は数々の名演で知られ、来日時の公演はオールドファンの間で今も語りぐさになっています。ヘルシンキ・フィルとのEMI録音は、ベルグルンドにとって2回目の商業録音。「3回目」のヨーロッパ室内管との全集録音も世評高いですが、わたしのイメージする「ベルグルンドのシベリウス」はこっち。この「第6番」の演奏を収めたカセットテープを、わたしは大学時代ヨーロッパを1ヶ月ほどぶらぶら遊びに出かけたときに持参していたのですが、ヘルシンキからトゥルクに向かう車上で汽車に揺られながらウォークマン越しにこの曲を聴いていると、列車のノイズとシベリウスの音楽のリズムが見事にシンクロして、何ともいえない気分になったのを憶えています。…でのちに作曲家の吉松隆氏が「第6番」を宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の列車に絡めて表現しているのを知り「ああ、似たようなことを考える人ってやっぱりいるもんだなあ…」と思ったものです。

 

㉞ ロストロポーヴィチ指揮ロンドン・フィル他 チャイコフスキー交響曲(全7曲)他

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 ロストロポーヴィチは指揮者としても活躍しましたが、このチャイコフスキー、率直に言って大味です。なんか大時代的ですし、響きは大きいけど締まりが無いところもあります。でもですね…これは他のチャイコフスキー録音が良すぎるんですよ(笑)。かつて音楽雑誌が名盤百選なるものを企画すると、チャイコフスキーといえば決まってムラヴィンスキーカラヤンかの二択となるのが常でした。音楽の指向性は違えど、両者とも「厳格さ」がウリの指揮者でしたし、両方の録音を聴くとスラヴァのチャイコフスキーの「ユルさ」が気になって…という部分は否めないところです。だがそれを補って余りあるロシア的で豊かなカンタービレと、劇的表現性の高さがこのチャイコフスキーの魅力です。手始めに交響曲ではありませんが「ロミオとジュリエット」で切々とした感情たっぷりの語り口による壮大なドラマを感じてみてはいかがでしょうか。

 

㉟ ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン他 リヒャルト・シュトラウス管弦楽曲全集

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 ここからはシュターツカペレ・ドレスデンの録音が続きます。1970年代の同オケの音を収めたテープがEMIに多く遺されていることは、歴史的にも価値あることだと思っています。私たち音楽ファンは何気なく「独墺系の音が」とかいうフレーズを使うのですが、この時期のシュターツカペレ・ドレスデンサウンドは、理屈抜きに誰しもがイメージできて納得できる「独墺系」サウンドであり、その代表格的存在です。ケンペのリヒャルト・シュトラウスですが、これは上述の宇野教信者による熱烈なレコメンドにより聴き始めて、こちらは今でも折に触れ耳にしております。全集ですのでヴァイオリン協奏曲とかオーボエ協奏曲とか、マイナー作品も収録されているのもポイント高いですね。この「オーボエ協奏曲」の作曲の経緯がとても面白いのですが……またの機会にしますね。

 

㊱ サヴァリッシュ指揮シュターツカペレ・ドレスデン シューマン交響曲(全4曲)他

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 サヴァリッシュ先生はNHK交響楽団との共演でおなじみですが、音楽活動の拠点はミュンヘンでした。彼がバイエルン州立歌劇場の音楽監督(または音楽総監督)を務めていたころ、ミュンヘンにはもう一人、セルジュ・チェリビダッケというレジェンドが君臨していました。この2人の音楽性の異なるマエストロが並び立っていた1980年代のミュンヘンの楽壇てどんな雰囲気だったんだろう、と思いを馳せることが、ときどきあります。あとアメリカではフィラデルフィア管弦楽団時代のサヴァリッシュへの評価が高いみたいです。
 このシューマンは歴史的名盤なのですが、今回改めて聴いても「素晴らしい」としかいいようがないですね。音がとても輝いているし、そしてオケが豊かに鳴っていて、その響きに安定感がある。

 

㊲ キリ・テ・カナワバーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)アンネ・ゾフィー・フォン・オッターメゾソプラノ)クルト・リドル(バス)フランツ・グルントヘーバー(バリトン)他 ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士

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 EMI原盤で「ばらの騎士」といえば第一選択はシュワルツコップなのですが、ここでは外してみました。この1990年録音はオッターがオクタヴィアン役(クライバーの伝説的公演にも同役で出演!)なのが目を惹いたので今回聴いてみたのですが、他にも多くの美点を持った、見過ごせない録音だと思います。まずはオケ。冒頭のホルンのフレーズがたまらなくカッコいい。素敵なのでもう一度聴きたくなる。そして劇の進行に伴いホルンが同じフレーズを吹いたところで「あ!」と思わずニコリとしてしまいます。ハイティンクの音楽作りも劇的だしリリカルなところもちゃんと押さえてる。キリ・テ・カナワは声で語る感じがいいですね。そしてクルト・リドルの芸達者っぷり!オペラなんですけど、演劇を聴いてるような気持ちにさせてくれます。

 

㊳ クレンペラー指揮フィルハーモニア管 モーツァルト交響曲

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 オットー・クレンペラー(1885年生、1973年没)はフィルハーモニア管弦楽団との共同作業の評価が高く、EMI録音も殆ど全て同オケとの共演だったと思います。クレンペラーから何を選ぶか、となるとマーラー作品も捨てがたい(とくに「大地の歌」)のですが、ここではモーツァルトを。「こうしようか」「ああしようか」と奇をてらったところが何もない、竹を刀でスパーン!と割ったような潔さが音楽にありますね。

 

㊴ バルビローリ指揮ベルリン・フィル マーラー交響曲第9番

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 次はサー・ジョン・バルビローリです。ああグロリアス・ジョン(←英国ではリスペクトを込めてこう呼ばれた)!あなたはなぜ、マーラーが得意なのにEMIには3曲しか正規録音を遺していないのか!…と嘆いても仕方ないのですが、ほんと「第5番」「第6番」「第9番」の3曲しかない。彼のマーラー演奏のライブ音源が続々と発掘されてCD化され結局「第8番」以外全部聴けるようになり、それらを聴く度に同じ嘆きのフレーズが脳裏をよぎるのです。
 ベルリン・フィルとの「第9番」はその中でも世評高い名盤と言われるもの。今となっては明晰でハイ・フィデリティな録音も多くなったけど、バルリローリのマーラーには「情熱」がある。ただその「情熱」は、ただいたずらにオケをあおるだけで発生する類いのものではありません。別の曲ですけどバルビローリのリハーサル風景を収めた動画がネットに落ちてますが、正直かなりしつこい(苦笑)。これだけネチネチやられるとオケはキツい…。でもこれくらい偏執的なまでに執着し、音作りを練って練って、それが積み重なった結果、「情熱」が生まれるのだと、バルビローリを聴きながら思ったりします。


㊵ フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、2つのロマンス

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 ドイツのヴァイオリン奏者「らしい」ドイツのヴァイオリニストとして、わたしが真っ先に思い浮かべるのがツィンマーマンです。技巧、解釈、音楽的に全ての局面で「安定」している。そしてそれが生む「安心」。これこそ名人芸だと思います。私まだ生で彼の演奏を聴いたことがないんです。終息したら聴いてみたい、そんな演奏家のひとりです。

 

【Teldec】


㊶ インバル指揮フランクフルト放送響 ブルックナー交響曲(全11曲)

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 やっと「50選」のうち五分の四を消化し、残りはテルデックその他です。え?カラヤンから1枚も選んでないって?…気のせいですよきっと。
 テルデックといえばインバルのブルックナーです。演奏自体の世評はもちろん高いのですが、複数のヴァージョン(ノヴァーク版)が存在する楽曲で、より「レア」なヴァージョンを採ることでもブルクネリアンを喜ばせてきた指揮者です。最初のリリースは「第8番」の1887年版(いわゆるノヴァーク第1稿)でした。このレコードの日本盤のライナーノートは、あの宇野功芳氏でしたが、彼の文章はいつにも増してテンションが高く、ブルックナー新発見に接した喜びに溢れていました。ほんとここで全文引用したいくらいですが、著作権の問題があるので自重します。。。

 

㊷ クライネフ(ピアノ)キタエンコ指揮フランクフルト放送響 プロコフィエフ:ピアノ協奏曲(全5曲)

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 ウラジミール・クライネフ(1944年生、2011年没)はネイガウス門下、チャイコフスキー・コンクール優勝(1970年)を経て、まさにロシア・ピアニズムの王道を歩んだピアニストでした。このプロコフィエフは強靱にして鮮烈、まさにプロコフィエフのコンチェルト演奏に相応しいものです。もうちょっと彼の演奏が録音で聴けると嬉しいのですが、どっかの放送局の倉庫に音源眠ってませんかね。。。
 ところで「ウラディーミル クライネフ」でエゴサーチすると、女性との2ショット画像が出てきます。この女性の名前はタチアナ・タラソワ。日本では浅田真央さんのコーチとして知られる、高名な元フィギュアスケート選手です。彼女はクライネフの未亡人です。

㊸ フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)ジークフリート・パルム(チェロ)ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)ジャック・ズーン(フルート)ハインツ・ホリガーオーボエマリー・ルイーズ・ノイネッカー(ホルン)ラインベルト・デ・レーウ指揮ASKO/シェーンベルク・アンサンブル、ジョナサン・ノット指揮ベルリン・フィル他 リゲティ・プロジェクト

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 リゲティ・ジェルジュはハンガリー出身、他国では姓名をひっくり返し「ジェルジュ・リゲティ」と呼ばれることが多いです。このアンソロジーには、先日のベルリン・フィルのヨーロッパ・コンサートでも演奏された「ラミフィカシオン」も含まれてます。個人的に名曲だと思ってる「ヴァイオリン協奏曲」も当然収録。
 ところで別レーベルに「リゲティ・エディション」なる類似企画のセットものがありまして、どうやら「エディション」のほうが「プロジェクト」に先行してレコーディングされたようであります。「エディション」の方にはメトロノーム100個使用で有名な「ポエム・サンフォニック」や舞台作品「グラン・マカーブル」も収録されていて「エディション」と「プロジェクト」の両方合わせて、はじめてリゲティの全貌が見えてくる、という格好になっております。でどうして2つのレーベルに分けちゃったんでしょうか?という謎が残るのですが。。。

 

㊹ バレンボイム指揮シカゴ響 マーラー交響曲第5番

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 Spotifyは放っておくと勝手にいろんな音楽を自動再生してくるわけですが、たまたま先日Spotify垂れ流しにしていたら不意にマーラー5番の第4楽章(アダージェット)が流れてきて「おいコレなかなかいいな…」と思いアルバム表示にしたら、バレンボイム&シカゴの演奏だったという。。。Spotifyでなかったら、もしかして今日まで聴かなかったかもしれない演奏です(苦笑)。でもシカゴ響のスーペルでマーヴェラスなサウンドが楽しめて、でもちゃんとマーラー演奏として聴けるところが素晴らしいと思いました。ところで冒頭のトランペット吹いてるの誰ですか?上手すぎなんですけど。


㊺ シュタイアー(フォルテピアノ) シューベルトピアノソナタ第16番、3つのピアノ曲D946

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 アンドレアス・シュタイアーはドメニコ・スカルラッティハイドンの録音で好きになった鍵盤奏者です。テルデックに移籍してから収録したシューベルトピアノソナタ第16番」は、「暗い」曲の「暗い」演奏、というところが私のお気に入りです。このあとの3つのピアノ曲で、いかにもシューベルトな青白い音のポエジーが見事に表現されているところも良いですね。

 

㊻ プレガルディエン(テノール)シュタイアー(フォルテピアノ) シューベルト:歌曲集「冬の旅」

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 シューベルトからもう1曲、「冬の旅」も好きな曲なのでチョイス。11年前に聴いた、プレガルディエンの「冬の旅」は貴重な音楽体験でした(当時の感想はこちら)。若さ故に没落し、在処を求めさまよい続ける人間が感じる孤独感と不安、そして幻覚。人間て、よりどころがないと不安になっちゃうものなんですよ。最近の日本のネット界を見てると、そう感じずにはいられません。

 

㊼ ブリュッヘン(リコーダー)レオンハルトチェンバロビルスマ(チェロ) ヘンデル:リコーダーのためのソナタ

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 フランス・ブリュッヘン(1934年生、2014年没)は、革命的ともいえるほどにスパーク!ジョイ!なリコーダー演奏で人々を魅了した傑物です。彼のリコーダー演奏に感化されてリコーダーを吹くようになった人も少なくない、と聞きます。晩年は自ら結成した「18世紀オーケストラ」の活動でも知られています。
 私的にブリュッヘンといえば、ヘンデルソナタです。津田蓄音機店という京都・出町にかつてあったレコード店で手に入れた中古LP。針を落として流れるのは、あまりにもシンプルな音楽。それこそ豆腐のように、大事に扱わないとこわれてしまいそうで、でも大事に扱いたくなる。そんな愛おしさを感じる曲であり、演奏でした。
 その音源は実は、SEONレーベル(いまはソニー傘下)のものなので代わりに(失礼!)ワーナーにもあるヘンデルソナタにリンクさせてください。こちらも素晴らしいものです。ブリュッヘンレオンハルトビルスマ……今はきっと天国でもトリオを組んでいて、時々アーノンクールに絡まれたりしてるんだろうな…と夢想してます。

 

【その他】

㊽ 舘野泉(ピアノ) パルムグレム:ピアノ作品集【FINLANDIA】

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 いよいよあと3つを残すのみとなりました。え?アーノンクールが出てないって?たぶん気のせいでしょ。
 舘野泉さんは日本を代表するピアニストの一人。病を得て左手だけで演奏する「片手」のピアニストとなってからの活躍が有名ですが、「両手」時代の録音も看過できません。セリム・パルムグレン(1878年生、1951年没)は、そのリリカルな作風で「北欧のショパン」と称された作曲家。彼の音楽の美質を、舘野さんは最良なかたちで表現していると思います。Kiitos!(キートス!:「ありがとう」の意味)。
 


㊾ ハッキラ(フォルテピアノ) モーツァルトピアノソナタ全集【FINLANDIA】

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 このトゥイヤ・ハッキラのモーツァルト、わたし初発時からずっと慣れ親しんでいる録音なのですよ。自然体、ナチュラルなところが大好きなんですけど、でもあまり評判にならないのが残念です。というか皆さんモーツァルトピアノソナタは何を聴いているのでしょうか?デイム・ミツコ・ウチダ(内田光子)?リリー・クラウスワルターギーゼキング?それとも藤田真央?え?グルダ?じゃあしゃあない(笑)。

㊿ グルダ(ピアノ、指揮)ミュンヘン・フィル モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、同第26番【MPhil】

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 グルダモーツァルト!これこそ「天才 meets 天才」。フリードリヒ・グルダ(1930年生、2000年没)がモーツァルトを弾くのなら間違いない!!ぶっちゃけグルダってモーツァルトの生まれ変わりちゃうん!?と思いつつ音源を耳にしたら、そのとおりでしたすみません<(_ _)>
 更に。「グルダモーツァルト」といえばソナタを聴かずにはおられないですよ。別レーベルですけどリンクしときます。


 以上ミッション・コンプリート!御拝読ありがとうございました。

 

ワーナークラシックスの膨大な原盤から、なんとなく50タイトル選んでみた(前編)

 最近ワーナーミュージック・ジャパンのクラシック部門がTwitter上で「ワナクラ中人選」シリーズなるツイート連投をしていて、それが案外(といっては失礼なのですが)面白くて、「ああ、こんなのもワーナーなのですね」「え、これも今はワーナーなの?」「そもそもEMIのタイトルなのにワーナーのロゴが付いてるのが慣れない…」などと時の流れを痛感しながら脳内が刺激されてしまったわけでして。。。いわゆる「インスパイアされた」と申しましょうか、私もワーナーミュージックが現在扱ってる原盤からセレクトしてみることにしました。ステイホーム週間に丁度良い課題かな、と思いやってみました。
 50タイトル中前半は旧ヴァージン・クラシックス、ノンサッチ、エラートから25タイトル、後半は旧EMI、旧テルデック他から25タイトルの紹介となります。まずは前半。

 

 

 

【旧Virgin Classics】

① プレトニョフの「展覧会の絵」(※クセあり)

プレトニョフ(ピアノ) ムソルグスキー展覧会の絵チャイコフスキー:「眠れる森の美女」組曲、6つの小品作品21、「四季」

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 ミハイル・プレトニョフはまだソ連があった時代にNHK教育テレビで来日公演を見たのが最初でしょうか。その番組内インタビューの受け答えが「なんか煮ても焼いても食えない」感じというか、なんかクセのある人だなあ、と思いながら見ていた記憶があります。1989年収録の「展覧会の絵」もクセがありますね。あちこちに「え!?」と引っかかるところがあって、この異形の名作の持つエキセントリックなところが数割増しになっている印象です。一方そのあとのトラック、彼自身の編曲による「眠れる森の美女」は掛け値無しにすばらしいですね。編曲によってオリジナルの美点が減ずることは皆無。まさにチャイコフスキーの音楽そのものだし、ピアノ曲としても魅力的。

② アンスネスグリーグ (※叙情性あり)

アンスネス(ピアノ)キタエンコ指揮ベルゲン・フィル グリーグ:ピアノ協奏曲 他

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 若き日のレイフ・オヴェ・アンスネスによる、フレッシュかつリリカルなグリーグのコンチェルトは1990年の収録。この2年後の2月ベルリン・フィルと初共演したときも同曲を演奏している。そのときの指揮はネーメ・ヤルヴィ。蛇足ですが、そのコンサートの前プロはステンハンマル「エクセルシオール」、後プロ(メイン)はニールセン「交響曲第2番」という、オール北欧プログラムでした。NHK-FMでかつてオンエアされていて、グリーグもよかったんですけど、ニールセンが素晴らしかった!あの演奏、また聴けないでしょうか。。。

 

③ アンサンブル・ソネリー バッハ:音楽のささげもの

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 一時この演奏をヘビロテしてました。まず録音がよくて、響きをよく取り込んだふんわりとした感じが、この曲の持つ神秘的な雰囲気に合致してます。モニカ・ハジェットら、各奏者の奏でる豊かな音も素晴らしい。これは「ワナクラ中人選」にもセレクトされてますね。

 

④ マッケラス指揮のシューベルト

 マッケラス指揮エイジ・オブ・エンライトゥンメント管 シューベルト交響曲ハ長調D944「グレイト」他

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 私が「50選」をやろうと思って真っ先に探したのが、「サー・チャールズ・マッケラスベートーヴェンは果たして配信に上がってるだろうか?」ということでした。1990年代の英EMIには新譜なんだけどミッドプライス(廉価盤)の価格でリリースされるブランド「Classics for Pleasure」というのがありまして、そのシリーズの一環で発売されたマッケラス&ロイヤル・リヴァプール・フィルのベートーヴェン交響曲全集(→画像)がなかなかの出来なのです。マッケラスは名ピアニスト、アルフレート・ブレンデルの最終公演の共演相手を務めるほどの実力者なので、私のような素人が「なかなかの出来」と申し上げるのは失礼千万なのではありますが、「廉価盤のわりには」という意味以上でも以下でもないのでご容赦を。彼のベートーヴェンは全曲ではないですが数曲サブスクで聴けます(「第3番」の押しの強さには驚かされます)。
 でサブスクで聴けるマッケラス他に無いかな…と探してみたら見つかったのが英ヴァージン原盤のシューベルトでした。このなかで「グレイト」は、古楽器オケで、古典派の楽曲を、古楽器の魅力を損なうことなく演奏するにはどうしたら良いか、という問いへの最適解があるように思われます。すべてがスムーズで、響きがクリアで、楽器間の音の重なりも有機的で実に魅力的です。これを聴くと「どうして現在主流のいわゆる『ピリオド奏法』はこっちの方向に行かなかったんだろう…」という思いを強くするのであります。なお併録の「交響曲ロ短調」(いわゆる「未完成交響楽」)はニューボールド補筆完成版による演奏です。

⑤ プロコフィエフ「3つのオレンジへの恋」

ミシェル・ラグランジュ、カトリーヌ・デュボスク(ソプラノ)ジャン・リュック・ヴィアラ、ジョルジュ・ゴーティエ(テノール)ジュール・バスタン(バス)ナガノ指揮リヨン歌劇場管他 プロコフィエフ:歌劇「3つのオレンジへの恋」(フランス語歌唱)

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 ケント・ナガノの指揮者としてのキャリア初期にリリースされたもの。反リアリズムというか、シュールなストーリーを持つ作品なので、ここはひたすらプロコフィエフの刺激的な音楽の世界に没頭するつもりで耳を傾けるほうがいいかと思います。おもちゃ箱をひっくり返したかのように、次から次へといろんな音楽、バラエティに富んだ破天荒な音楽が溢れ出てくるのですから。

⑥ スークの管弦楽曲

ペシェク指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル スーク:交響曲「アスラエル」他

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 わたしが音楽に興味を持ち始めた1980年代、「ヨゼフ・スーク」といえば名ヴァイオリニスト(1929年生、2011年没)のことでした。レコードなどで彼のプロフィールを読むと「ドヴォルザークの曾孫、同姓同名の作曲家の孫」と書いてあるのが常なのですが、ちょうどその頃はLPからCDにメディアが切り替わる時期で、手軽に入手できるチェコクラシック音楽といえばドヴォルザークか「わが祖国」か、といった状況でした。それゆえ「ドヴォルザークはともかく、スークの祖父ってどんな作曲家?」と首を捻るばかりでした。そんな中リリースされたのが、ベルリンの壁崩壊の2年前(1987年)からリヴァプールのシェフだったチェコ人、リボル・ペシェクの指揮する「アスラエル」でした(1990年収録)。このCD録音はイギリスでそれなりに評判となったようで、ペシェクは1992年には「人生の実り」、1994年に「夏物語」、1997年に「おとぎ話」「エピローグ」と続けて録音していきます。スーク作品のリリースはその後も徐々に増えておりますし、チェコ出身の若手注目株の指揮者ヤクブ・フルシャが日本を含む世界各地で盛んに演奏してることも相まって、スークの曲は今後コンサート・レパートリーに組み込まれそうな予感がします。


⑦ またいつか生で聴きたい。ミシェル・コルボのレクイエム

コルボ指揮ローザンヌ器楽・声楽アンサンブル モーツァルト:レクイエム、フォーレ:レクイエム他

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 ミシェル・コルボといえば「ラ・フォル・ジュルネに出演してくれる大御所指揮者」というイメージを抱く人は少なくないかもしれません。少なくとも私はそうです。有楽町では2009年のバッハ「マタイ受難曲」がとても印象的だったのですが、2007年に聴いたフォーレも素晴らしかったです。ラ・フォル・ジュルネの観客はファミリー層が多くて、良くも悪くもにぎやかところが特徴なのですが、当時こんなコトをmixiに(!)書いてました…
 「レクイエムの演奏が始まるともうのっけからさっきまでの都会の喧騒とは別世界。まさに宗教的で清らかなムードで音楽が進んでいった。サンクトゥスやイン・パラディスムの出だしなんかまじでヤバかった。最初のうちはあちこちで聞こえた子供たちの「ばぁ~」も最後には止み、演奏後はしばしの静寂に包まれてました」
 ストリーミングを聴きながら、実演の思い出に浸ってました。この盤はフォーレが1992年収録。モーツァルトは1995年収録です。
……といいつついろいろ調べてたらこの1992年録音のフォーレ、初発時はfnacレーベル名義でリリースされてたのですね。。。ヴァージン名義ではありませんでした。本来なら「その他」扱いにすべきですが、ああどうしよう…。もういいか。どうかご容赦くださいませ。。。

 

【Nonesuch】


⑧ 晩年のホルショフスキのアルバム

ホルショフスキ(ピアノ) モーツァルト:幻想曲ニ短調K397、ショパン夜想曲(2曲)、ドビュッシー:ベルガマスク組曲ベートーヴェンピアノソナタ第2番

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 ミエチスワフ・ホルショフスキ(1892年生、1993年没)の1987年の初来日、そして(今は残念ながらコンサートホールとしての機能を停止している)カザルスホールでのライブは、当時95歳だったこともあり、随分話題になったものです。この録音も同時期に収録されたものなのですが、音楽の「フォルム」が定まっていて堅固なのが印象的ですし、モーツァルトショパンドビュッシーベートーヴェンと時代も国も異なる作曲家の個性、曲の個性が着実に音となって表現されているというのも素晴らしい。もっと素晴らしいのは、今これをタイプしながらホルショフスキの弾く「ハンマークラヴィーア」を聴いているのですが、この1951年録音と80年代録音とで、全然ピアニストとしての個性に変化がない、そんな揺るぎのなさが素晴らしい。


⑨ リチャード・グード(ピアノ) ベートーヴェンピアノソナタ全集

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 そんなホルショフスキにカーティス音楽院で学んだリチャード・グードです。今まだホルショフスキのベートーヴェン聴きながらタイプ中ですが、こうやって耳を傾けているとホルショフスキとリチャード・グードって地続きというか、語り口が似てますね。淡々と、しかし着実に音楽は進んでいく、みたいな職人技的なところが。すでにこの全集、世評が高いので改めて私が云々することはそんなにないかな。でもエゴサーチしてみたら矢野顕子さんもリチャード・グードのベートーヴェンをツイッターで褒めてたんですってね。サー・アンドラーシュ・シフも好きみたいです(→参照NYタイムズ紙)し、同業者に「推し」が多いというのは興味深いところですね。


⑩ ビルスマとビルソンのベートーヴェン

ビルスマ(チェロ)ビルソン(フォルテピアノ) ベートーヴェンチェロソナタ集2

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 アンナー・ビルスマ(1934年生、2019年没)は1989年来日の折、マルコム・ビルソンとのデュオでベートーヴェンチェロソナタをライブで披露していました。その演奏はNHK-FMで放送され、私もそれをエアチェック録音したものをずっと聴き続けてきました。ノンサッチ盤は同時期(作品5の2曲は1986年、残り3曲は1989年)の収録。まさに安定のビルスマが聴けます。後年ベートーヴェンインマゼールとレコーディングし直してますが、ビルソンとのデュオも全然悪くないです。ただSpotifyでは作品5の2曲が見つからないです。ナクソス・ミュージック・ライブラリーにはあるのですが…。とりあえず「第3/4/5番」にリンク貼っておきます。

 

⑪ テレサ・ストラータス(ソプラノ)「知られざるワイル~クルト・ワイル歌曲集」

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 クルト・ヴァイル(1900年生、1950年没)は本当に興味深いプロフィールの持ち主です。交響曲からミュージカルまでという作曲リストの幅広さ、ベルトルト・ブレヒトからアイラ・ガーシュインまで、コラボした人物も多彩。ヴァイル存命中に彼の曲に触れ演奏したアーティストも、ブルーノ・ワルターからダニー・ケイまで、バラエティに富んでいます。激動の20世紀をしたたかに生き抜いた、まさに「20世紀的」作曲家といえるでしょう。
 テレサ・ストラータスはオペラ歌手ですが、彼女が重要なキャストとして出演した「マハゴニー市の興亡」メト公演を観た作曲家未亡人にして所謂「ヴァイル歌い」のレジェンドであるロッテ・レーニャが彼女を激賞した(→参照)のを契機に、彼女もまた「ヴァイル歌い」としてのキャリアを歩むことになります。レーニャから託された元夫の楽譜を元に1981年にレコーディングされたのが、この「知られざるワイル」でした。
 収録曲で私のお気に入りは「マーゲイトの貝殻」(別名「石油ソング」とも)。海辺の村が石油採掘により変貌し、さらに石油メジャーに呑み込まれ…という歌詞。たびたび登場する決め台詞の「シェル!シェル!シェル!」て絶対某石油会社をイメージしてますよね(苦笑)。

⑫ グレツキ交響曲第3番」

ドーン・アップショウ(ソプラノ)ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタ グレツキ交響曲第3番

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 ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933年生、2010年没)もある意味「20世紀的」作曲家かもしれません。元々ルトフワフスキ、ペンデレツキ(先日逝去されましたね。残念です…)らと並びポーランド現代音楽を代表する作曲家であったグレツキが、「新ロマン主義」とも言える協和音中心の作風へと変化した時期の作品が「交響曲第3番」。1977年にエルンスト・ブール指揮で初演されていますが、初演時は酷評だったようです。前述のペンデレツキもズビン・メータ指揮ニューヨーク・フィルにより1980年に初演された「交響曲第2番」あたりからメロディアスな作風へと転換しているので、これは当時のポーランド楽壇のトレンドだったのかもしれませんが。。。
 それでもこの作品の持つ悲劇性と、透明感あるサウンドに惹かれた人物がいました。ヨーロッパの映画関係者を始めとする、いわゆる「エンタメ業界人」たちです。彼ら彼女らがこの作品を映画やビデオのBGMに使い始め、少しずつ人々の耳に届くようになります。やがて欧米のクラシック音楽系ラジオ局、特に1992年9月に開局した英Classic FMが開局第1週にオンエアし、さらにヘビーローテーションされたのを契機に広く認知されるようになります。デイヴィッド・ジンマン指揮によるノンサッチ盤は70万枚という、レコード不況の現代では握手券や特典込みでも到底出せないセールスを叩き出しました。この大ヒットはグレツキの人生も変えました。昔「グラモフォン」誌(イギリスのクラシック音楽情報誌)に掲載されたインタビュー(同誌1993年4月号)で「車がベンツになった」「今の夢は山の中に作曲が出来る小さな家を持つこと」などと語っていました(6/14追記:インタビュー記事を見つけたので実際の誌面に合わせるべく修正いたしました)。

⑬ ライヒ「ディファレント・トレイン」

クロノス四重奏団、パット・メセニー(ギター) ライヒ:ディファレント・トレイン、エレクトリック・カウンターポイント

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 現代アメリカを代表する作曲家スティーヴ・ライシュ(日本では「ライヒ」と呼ばれるのが一般的なので、以下「ライヒ」で行きます)は1936年生まれですから……現在御年83歳ですか!いつの間に!「コバケン」こと小林研一郎さんが先月卒寿を迎え80歳になった、と聞いたので「えええー、ライヒてコバケンより年寄りなの~~」と軽く驚かせてください。
 さて、「18人の演奏家のための音楽」(1976年初演)で知られるライヒが、ユダヤ人としての自らのルーツを見つめ直し、別々に暮らす父母の間を列車で行き来していた幼少期の記憶を題材に、「もしその時代に自分がヨーロッパに居たら、自分は違う列車、収容所行きの列車に乗せられていたかも……」という思いを込めて書いたのが「ディファレント・トレイン」(1988年作曲)。曲を構成するのは弦楽四重奏による生演奏と、事前にインタビューされた人々の声の断片を記録したテープ、そして汽笛の音(これもテープ)です。ライヒ的な音のパルスの上に人の声が乗っかり、それを弦楽器が模倣する、という作曲技法が、このディスクがリリースされた当時とても斬新に感じたのを憶えています。

 

⑭ アダムズ「ニクソン・イン・チャイナ」

トルディ・エレン・クレイニー、マリ・オパッツ、キャロラン・ページ(ソプラノ)マリオン・ドライ、ステファニー・フリードマンメゾソプラノ)ジョン・デュイカーズ(テノール)ジェイムズ・マッダレーナ、サンフォード・シルヴァン(バリトン)トマス・ハモンズ(バス)デ・ワールト指揮セント・ルークス管&合唱団 アダムズ:歌劇「ニクソン・イン・チャイナ」

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 ジョン・アダムズはノンサッチ・レーベルと関係の深い作曲家ですね。近作「ドクター・アトミック」のスコアは同レーベルの初代社長であるロバート・ハーウィッツ氏に献呈されています。
 「シェーカー・ループス」など、ライヒミニマル・ミュージックで作曲家としてのキャリアをスタートさせたジョン・アダムズが、オペラ作曲家として活躍するきっかけとなったのが1987年ヒューストンで初演された「ニクソン・イン・チャイナ」。エト・デ・ワールト指揮によるノンサッチ盤にも、初演時のキャストが名を連ねています。ニクソン大統領の訪中、という政治的事件を下敷きに別のストーリーが展開するのでなく、ニクソン訪中「そのもの」をオペラ化する、という大胆なシノプシスは初演当時「CNNオペラ」と揶揄されたりもしましたが、以後上演を重ね、最近ではメトロポリタン歌劇場の舞台にも乗りました。
 このオペラ音楽の特徴は、いささかの皮肉込みのユーモアにあると思います。劇中ニクソンが歌うアリア「News has a kind of Mystery」は「ニュース!ニュース!ニュース!」の連呼で始まり「ハーズァ!ハーズァ!」の反復、そして「♪ミーステリ~~~イイ~~~イイ」と唐突にオペラティックな節回しという、なかなかコミカルなものです。こりゃ最初聴いた人は戸惑ったでしょうね……。江青女史のアリア「I am the wife of Mao Tse-tung」も大仰すぎて面白いです。

 

【Erato】

⑮ スラヴァと小澤のドヴォコン

ロストロポーヴィチ(チェロ)小澤征爾指揮ボストン響 ドヴォルザーク:チェロ協奏曲他

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 エラート・レーベルといえば、かつての独立系クラシック音楽レーベルの雄、やがてワーナーと合併しレーベルとして一旦消滅したものの旧ヴァージンのアーティストを加えてリブランドし、現在は同社のクラシック部門の代表的存在、という理解でよろしかったでしょうか?ただ私的には「エラート」=「フランスのレコードレーベル」という固定観念が未だ払拭できてないのでありますが。
 で最初が「スラヴァ」の愛称で知られるムスティスラフ・ロストロポーヴィチ独奏による、これまた「ドヴォコン」と愛好家の間で呼ばれるドヴォルザークのチェロ・コンチェルトです。フランス人アーティストによる、フランスのレパートリーで知られたかつてのエラート・レーベルの中ではやや異色かもしれませんが、壮年期のスラヴァによるドヴォコン(1985年収録)、というのが貴重なので。

 

⑯ ミシェル・ルグラン(ピアノ) アメリカン・ピアノ・ミュージック

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 先日亡くなったジャズ・ミュージシャン、ミシェル・ルグランも、エラート・レーベルに幾枚かの録音を遺しています。サティの作品集や、いつかどこかのラジオで聴いたようなライト・ミュージックを集めた「ハッピー・ラジオ・デイズ」もいいのですが、このアメリカ・ピアノ音楽のアンソロジーはゴーチャーク(ゴットシャルク)からスコット・ジョプリンガーシュインからジョン・ケージまでという、幅広い楽曲が一枚で聴けるというのが何かお得感あります。ルグランのピアノも「さすがコンセルヴァトワール出身」と思わずにいられない達者ぶりです。

 

⑰ ガーディナーパーセル

ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ&モンテヴェルディ合唱団 パーセル:「メアリー女王のための音楽集」

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 今も現役バリバリの指揮者サー・ジョン・エリオット・ガーディナーですが、彼が楽壇から注目されるきっかけとなったのがパーセル作品の演奏だった、と大昔NHKラジオで語っていたのは磯山雅さんでした。ガーディナーが初来日(1989年)のときに演奏していたのが収録曲「メアリ女王の葬送音楽」。太鼓とラッパの重々しい響きと調べが、ラジオでオンエアされた時に深く心に残りました。

 

⑱ グリモーとザンデルリンク、手に汗握るブラームス

グリモー(ピアノ)クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ベルリン ブラームス:ピアノ協奏曲第1番

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 エレーヌ・グリモーが当時の楽壇の重鎮ザンデルリンク率いるオケと互角以上に渡り合い、過去のピアノの巨人たちもさぞや、と思わせる重厚なピアニズムで最後まで耳をつかんで離さない、というこのアルバム。それ以前グリモーに勝手に抱いていたイメージからは想像もつかない仕上がりに、とても驚いたものだ。

 

⑲ フォーレのヴァイオリンソナタ、好きです。

アモイヤル(ヴァイオリン)ケフェレック(ピアノ) フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番、第2番

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 フォーレのヴァイオリンソナタ、とくに「第1番」が好きなので挙げてみました。「第1番」て、ヴァイオリンが入るまでのピアノのイントロがいいんですよ。ピアノの音を聴いているうちにどんどん切なくなってくる、期待に胸膨らんでいく……そんな心に直接訴える素晴らしい出だし。この箇所でのケフェレックのピアノが実に素晴らしい。アモイヤルが登場する前から胸熱になります。もちろんそのあとのヴァイオリンも切ないです。


⑳ プレートル指揮ウィーン交響楽団 サンサーンス交響曲第2番、第3番

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 ジョルジュ・プレートル1924年生、2017年没)は実に長く輝かしい演奏家キャリアの持ち主。オペラハウスやコンサートホールでの豊富な経験を経て、最晩年にはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの指揮者を務めるまでになった人物です。2008年と2010年の2回の新春公演は、今思いだしてみても「なにより聴いててとても楽しかった!」ということに尽きます。
 そんな彼はウィーン交響楽団との共演歴が長く、それがウィーン・フィルとの仕事に繋がった、とも云われています。プレートルとウィーン響はマーラーなどのライブ盤もありますので、興味ある方はどうぞ探してみてください。ここで取り上げたサンサーンスがまた、音楽が躍動していて素晴らしいです。彼のように、聴いていて元気になる音楽家っていいですね。存在が尊い

 

㉑ ルーセルのカルテットも好きです。

ヴィアノバ四重奏団 ルーセル弦楽四重奏曲(「ルーセル・エディション」から)

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 ルーセル弦楽四重奏曲が好きなので、強引に選んでみました。対位法的進行の第4楽章が、いかにもカルテット!て感じで、実に渋くて苦い。だがそこがカルテットの良いところ!ですね。リンク先はエラートの豊富な音源を集めた「ルーセル・エディション」にいたしましたが、このジャケ写、「絶対に笑ってはいけないジャケ写」クラシック部門で第4位くらい、オールジャンルでも32位くらいには入りそう。。。この画像「作曲準備でフィールドワークをするルーセル自身」ということらしく、出所としては至極真っ当なものなんですが……。

 

㉒ カルテット・アロドの新ウィーン楽派

 ウェーベルン:緩徐楽章、シェーンベルク弦楽四重奏曲第2番、ツェムリンスキー:同第2番

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 ここからはエラート・レーベルの比較的最近の新譜から幾つかチョイスしてみます。カルテット・アロドは泣く子も黙るミュンヘン国際コンクールで優勝!という輝かしい実績を持つ実力者たちです。メンデルスゾーンのディスクも既発ですが、私は新ウィーン楽派の作品を集めたこちらが好印象。シェーンベルクの2番て、爛熟しきった後期ロマン派的ムードで始まるのに、ソプラノ歌手が入ると曲調が怪しくなり、果てには無調に突入!という20世紀前半の音楽史を一曲で楽しめる興味深い作品ですので、もっと多くの演奏家に取り上げてもらいたいんですけどね。

 

㉓ エベーヌ四重奏団 「ベートーヴェンアラウンド・ザ・ワールド

ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集

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 今やフランスを代表するカルテットであるエベーヌ四重奏団。今年はベートーヴェン生誕250周年のアニヴァーサリー・イヤーということを意識してか、去年からの世界ツアーのメインプログラムはベートーヴェン。それらの模様を収録したもの。

 現在のベートーヴェンのカルテット界における私の「推し」はベルチャ、デンマーク、エベーヌの三団体なのですが、おのおのが確固たる個性を持っているところが素敵であります。コリーナ・ベルチャ率いる強引なまでの「個性」がウリのベルチャ、音楽の芯がブレない「構築力」で聴かせるデンマーク、そしてエベーヌは音楽表現の「輝き」が魅力です。

 

㉔ ブラームスのピアノカルテットは好きですか?

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)ジェラール・コセ(ヴィオラ)ゴーティエ・カピュソン(チェロ)ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ) ブラームス:ピアノ四重奏曲全集

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 ブラームスのピアノカルテットはお好きですか?私はほんと、いろんな演奏で聴きましたね。一番古いのはバリリのウェストミンスター盤、ルービンシュタインRCA盤も、ペライアアマデウス四重奏団の3人の「第1番」はホントよく聴きました。新しめのだとアックス、スターン、ラレード、ヨー・ヨー・マらによるソニー盤も。でエラートからは、同レーベルを代表するアーティストであるカピュソン兄弟にヴィオラのレジェンド、ジェラール・コセ、フランスを中心に活躍するピアニストのニコラ・アンゲリッシュが加わった全曲録音があります。聴いてみたらデリケートかつ繊細で、上記で挙げた他演奏では聴けない特徴を持ったユニークさが魅力ですね。とくにピアノのアンゲリッシュ。彼はもっと聴かれるべき存在ですね。フランスではリスト作品、たとえば「巡礼の年」とかをウェブラジオで聴いて技術の確かさに驚嘆したことがあります。

 

㉕ カウンターテナーの饗宴。その名は「アルタセルセ」。

フィリップ・ジャルスキー、マックス・エマニュエル・ツェンチッチ、フランコ・ファジョーリ、ヴェラール・バルナ=サバドゥス、ユーリィ・ミネンコ(カウンターテノール)ダニエル・ベーレ(テノール)ファソリス指揮コンチェルト・ケルン他 ヴィンチ:歌劇「アルタセルセ」

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 いずれ菖蒲か杜若、目移りするほどカウンターテノールのスターたちが勢揃い!カウンターテノール好きが益々カウンターテノールの「沼」にズブズブとハマっていくためにあるような音源。あらすじとか細かいところはとりあえず置いといて、まずはツェンチッチ!続いてファジョーリ様によるキレッキレのアリア!一人置いて(ダニエル・べーレすまん…)ジャルスキー!まさに配役どおり王子様が降臨したみたい!と続く第1幕のくだりを聴いて悦に入るのが吉。
 
 ご拝読ありがとうございました。前編終了です。後編一応構想中であります。。。