ワーナークラシックスの膨大な音源から、なんとなく50タイトル選んでみた(後編)

前編のつづきであります。。。

 

 

【旧EMI Classics】


㉖ ガブリーロフ(ピアノ)ムーティ指揮フィルハーモニア管、ラトル指揮ロンドン響 チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番、プロコフィエフ:同第1番、バラキレフ:イスラメイ、プロコフィエフ:悪魔的暗示

open.spotify.com


 昨年生で聴いたガブリーロフ…。なんか人間でない特殊能力の持ち主みたく、異形のピアニストになってましたね。。。そう、「鬼滅の刃」の禰󠄀豆子のような感じ。鬼の形相で鍵盤をひっぱたいてました。あれは鬼の仕業ですよ。
 さてこのディスクでは1970年代、人間時代(?)のガブリーロフを拝むことができるのですが、チャイコフスキープロコフィエフもハイパーなテクニックと重厚なピアノの響きで聞き手を圧倒するという、まさに「ザ・ロシアのピアニスト」っぷりを発揮しています。この「なんとなく50選」を書くとき改めて聞き直したのですが、ほんと惚れ惚れしました。なおリンク先の最終トラック、プロコフィエフ「悪魔的暗示」は去年アンコールで聴けました。この曲に限って、若き日の(人間時代の?)ガブリーロフが一瞬垣間見えたような、技巧の鮮やかさを見せていましたね。


㉗ ムーティ指揮フィラデルフィア管 レスピーギ:ローマの松、ローマの泉、ローマの祭り

open.spotify.com


 前述のチャイコフスキーでガブリーロフと共演したリッカルド・ムーティは、EMIに数多くのレコーディングを遺していますね。ムーティからひとつ何か、と思ったとき「アイーダ」は歌手がいいし「イワン雷帝」も好きだしどうしよう、、、と迷ったのですが、私の好きなローマ三部作を挙げておきます。名手揃いのフィラデルフィアの能力が全面開放され、極彩色でカラフルな管弦楽を堪能できます。ところで最近ウェブラジオでムーティシカゴ交響楽団を振った「ローマの松」を聴いたのですが、これがまたEMI盤と全然方向性が違う、まさにアダルトな「シカゴの音」で、それはそれで楽しかったです。動画で最後の方だけ観れますが、また何かの機会に全曲聴けるといいですね。


㉘ ボスコフスキー指揮ウィーン・ヨハン・シュトラウス管 スッペ、コムザーク、ツィーラーヨハン・シュトラウス二世、ヨーゼフ・シュトラウス、ランナー、ミレッカー:ワルツ、ポルカ、序曲、マーチ集

open.spotify.com


 毎年元旦になると、普段クラシック音楽についてあーだこーだ言うばかりのツイッタラーだけでなく、内海桂子師匠までウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに言及してくださるので嬉しくなるわけですが、この新春恒例行事の初代指揮者がクレメンス・クラウスで、その次の指揮者を務めたのがウィリー・ボスコフスキー1906年生、1991年没)。ヴァイオリン片手に指揮するというヨハン・シュトラウスばりの指揮姿で知られました。
 私が大学を卒業して社会人になったとき、職場にクラシック音楽好きの先輩がひとり居ました。同好の士が現れたことは嬉しいことではありましたが、その先輩はブルックナーならクナ(クナッパーツブッシュ)かシューリヒト、ベートーヴェンブラームスならブルーノ・ワルターカラヤンリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」ならオッケー、という、クラヲタならピン!とくるでしょうが音楽評論家の宇野功芳氏レコメンドのCDをせっせと収集されてる方でした。その宇野フォロワーな方とウインナワルツは誰のがいい?みたいな話になると決まって、その宇野なお方は「クレメンス・クラウスはいいぞ。ボスコフスキーはダメだ」と仰るわけです。私の脳には宇野派的思想が徐々に刷り込まれていき、自然とボスコフスキーのディスクを好んで聴くことは無くなり、中古に売られていきました。
 それからずいぶん経ったある日、なんとなくウィーンフィルの映像が欲しくなってネットを漁っていたときにボスコフスキーの指揮姿が目に止まりました。宇野教の洗脳から徐々に解けつつあった私は「ああ、今みたいにラデツキー行進曲のとき指揮者が観客に向かって指揮しない、昔のニューイヤーコンサートが見たい……」とふと思い、そしてポチり。手元にやってきたDVDをトレイに載せてみると、ボスコフスキーもオケも実に(いい意味で)肩の力が抜けていて、映像と音から素直に音楽の楽しさが伝わってきました。そして今のように巨匠が入れ替わり立ち替わり指揮台に登りかしこまった演奏を聴かせるよりも、こっちの方がしっくり来る。やっぱりヨハン・シュトラウスの音楽が元々目指してるのはコッチだな、と確信したのです。
 でボスコフスキーですが、ここでセレクトしたのはスッペ「軽騎兵」序曲を収録したディスク。広島カープのファンにはお馴染みのこの作品、オリジナルをフルバージョンで聴くならコレですよ。

㉙ アルバン・ベルク四重奏団、ヴォルフガング・シュルツ(フルート)エルンスト・オッテンザマー(クラリネット)アロイス・ポッシュ(コントラバス)ハインツ・メジムーレツ(ピアノ)アルフレート・ミッターホーファー(ハルモニウム) ヨハン・シュトラウス二世とランナーの作品集

open.spotify.com


 20世紀前半ウィーンで「私的音楽協会」という音楽協会が立ち上がりました。「音楽評論家立ち入り禁止」を謳う同会はドビュッシーラヴェルストラヴィンスキーといった同時代の音楽作品演奏を目的とした知的音楽サークルでしたが、マーラーヨハン・シュトラウスの曲も小編成に縮小された版を用いて演奏されていました。会の発起人シェーンベルクや、その弟子アルバン・ベルク、アントン・ウェーベルンの両氏も各自「私的音楽協会」のためにウインナワルツを編曲していて、この録音には彼らの編曲版が収録されてます。演奏は編曲者ベルクの名前を冠したアルバン・ベルク四重奏団と、ウィーン・フィルゆかりのメンバーたちです。いまやシュルツもオッテンザマーも故人となり、かわりに彼らの息子たちが父と同じ楽器で活躍していますね。
 さてこの「私的音楽協会」のために編曲された作品が、最近世界中で注目を浴びることとなりました。新型コロナウイルス感染症パンデミックにより、閉所密集による感染拡大を避けるため、という理由で世界中で(自粛であったり命令であったり各国で指示は異なるものの)演奏会が開催出来ない状況が現在も続いています。そんな中ベルリン・フィルは電撃的に例年5月1日に開催される「ヨーロッパ・コンサート」を団員たちのソーシャル・ディスタンシングに配慮しながら本拠地ベルリン・フィルハーモニーで無観客で行う、と発表しました。当日11時(現地時間、日本時間で18時)、この模様はベルリン・フィルの動画配信サイト「デジタル・コンサートホール」を通じ生中継されました。このときのプログラムのメインが、「私的音楽協会」向けに編曲されたマーラー交響曲第4番でした。同曲は本来「ヨーロッパ・コンサート」で演奏する筈だったので、どうしても組み込みたかったのでしょう。このチョイスにベルリン・フィルの「意地」を感じましたし、2メートル間隔の少人数の団員を前にしたキリル・ペトレンコの指揮が実に熱が籠もってましたね。目の前はコンサートマスター樫本大進ひとりなのに、まるでヴァイオリンの大群を操っているようにすら感じられる一瞬もありました。

㉚ アルバン・ベルク四重奏団 バルトーク弦楽四重奏曲(全6曲)

open.spotify.com


 アルバン・ベルク四重奏団は先ずテルデックで、そしてEMIに移籍してからも多くの録音を遺してます。わたし個人的にカルテットでチェロ弾いたりすることがあるのですが、そのときたとえばベートーヴェン「ラズモフスキー第3番」で左手の運指が解らなくなったときは彼らの動画を参考にしたりすることがあります。ラズモの3番むずかしいんですよ…。で左手が決まっても、やっぱり弾けない……となって絶望してるわけですが(苦笑)。でこの「なんとなく50選」ではベートーヴェンでなく、バルトークを挙げます。バルトーク弦楽四重奏曲も、過去多くの団体が録音を遺していますが、アルバン・ベルクのが一番聴きやすい、というかギラギラしてないところが、却って独特の味になってると思います。
 


㉛ ラトル指揮バーミンガム市響他 シマノフスキスターバト・マーテル聖母マリア典礼交響曲第3番「夜の歌」 

open.spotify.com


 サー・サイモン・ラトルは若いころからEMIクラシックの一押しアーティストとして活躍していましたが、このシマノフスキベルリン・フィルのボスになる前のバーミンガム時代のもの。「スターバト・マーテル」も「交響曲第3番」も、大編成のオーケストラによる鮮やかで官能的な色彩感と、音の圧力が印象的な作品。こういう曲を振らせるとラトルは上手いなあ、と思います。ラトルはバーミンガムでなくベルリン・フィルの演奏会で「春の祭典」を聴きましたが、いろんな楽器が放つ音がカオスなままでドン!とダイレクトにやってくる感じで、なかなか刺激的だったのを憶えてます。

 

㉜ マリス・ヤンソンス指揮オスロ・フィル シベリウス交響曲第1番、第2番、第3番、第5番他

open.spotify.com


 あくまで、あくまで個人的印象なのですが、、、マリス・ヤンソンスて、若い頃のオスロ・フィル時代の印象が強すぎて、その後コンセルトヘボウやバイエルンの指揮者になっても私の中では「永遠の若者」のイメージのまんまだったんです。だから去年11月の訃報はショックでした。。。
 でそんなオスロ時代といえば、なんといってもチャイコフスキー交響曲全集がヤンソンスのベストレコーディングなのですが他レーベルですので、、、ここではシベリウスを。「第2番」は以前からのお気に入りだったのですが、今回改めて聴き直していくと、「第3番」がめっちゃいい演奏なんですよ。第2楽章のカンタービレは泣けますし、めまぐるしく音楽が流転していく第3楽章をこれほどまで克明かつ劇的に表現した演奏をわたし初めて聴きました。判を押したように「シベリウスならやっぱりベルグルンドだねえ」なんて言っててはいかんな、と思いました。

 

㉝ ベルグルンド指揮ヘルシンキ・フィル シベリウス交響曲第5番、第6番、第7番

open.spotify.com


 でベルグルンドのシベリウスです(爆)。改めて私が言及する必要もないのですが、パーヴォ・ベルグルンド(1929年生、2012年没)は数々の名演で知られ、来日時の公演はオールドファンの間で今も語りぐさになっています。ヘルシンキ・フィルとのEMI録音は、ベルグルンドにとって2回目の商業録音。「3回目」のヨーロッパ室内管との全集録音も世評高いですが、わたしのイメージする「ベルグルンドのシベリウス」はこっち。この「第6番」の演奏を収めたカセットテープを、わたしは大学時代ヨーロッパを1ヶ月ほどぶらぶら遊びに出かけたときに持参していたのですが、ヘルシンキからトゥルクに向かう車上で汽車に揺られながらウォークマン越しにこの曲を聴いていると、列車のノイズとシベリウスの音楽のリズムが見事にシンクロして、何ともいえない気分になったのを憶えています。…でのちに作曲家の吉松隆氏が「第6番」を宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の列車に絡めて表現しているのを知り「ああ、似たようなことを考える人ってやっぱりいるもんだなあ…」と思ったものです。

 

㉞ ロストロポーヴィチ指揮ロンドン・フィル他 チャイコフスキー交響曲(全7曲)他

open.spotify.com


 ロストロポーヴィチは指揮者としても活躍しましたが、このチャイコフスキー、率直に言って大味です。なんか大時代的ですし、響きは大きいけど締まりが無いところもあります。でもですね…これは他のチャイコフスキー録音が良すぎるんですよ(笑)。かつて音楽雑誌が名盤百選なるものを企画すると、チャイコフスキーといえば決まってムラヴィンスキーカラヤンかの二択となるのが常でした。音楽の指向性は違えど、両者とも「厳格さ」がウリの指揮者でしたし、両方の録音を聴くとスラヴァのチャイコフスキーの「ユルさ」が気になって…という部分は否めないところです。だがそれを補って余りあるロシア的で豊かなカンタービレと、劇的表現性の高さがこのチャイコフスキーの魅力です。手始めに交響曲ではありませんが「ロミオとジュリエット」で切々とした感情たっぷりの語り口による壮大なドラマを感じてみてはいかがでしょうか。

 

㉟ ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン他 リヒャルト・シュトラウス管弦楽曲全集

open.spotify.com


 ここからはシュターツカペレ・ドレスデンの録音が続きます。1970年代の同オケの音を収めたテープがEMIに多く遺されていることは、歴史的にも価値あることだと思っています。私たち音楽ファンは何気なく「独墺系の音が」とかいうフレーズを使うのですが、この時期のシュターツカペレ・ドレスデンサウンドは、理屈抜きに誰しもがイメージできて納得できる「独墺系」サウンドであり、その代表格的存在です。ケンペのリヒャルト・シュトラウスですが、これは上述の宇野教信者による熱烈なレコメンドにより聴き始めて、こちらは今でも折に触れ耳にしております。全集ですのでヴァイオリン協奏曲とかオーボエ協奏曲とか、マイナー作品も収録されているのもポイント高いですね。この「オーボエ協奏曲」の作曲の経緯がとても面白いのですが……またの機会にしますね。

 

㊱ サヴァリッシュ指揮シュターツカペレ・ドレスデン シューマン交響曲(全4曲)他

open.spotify.com


 サヴァリッシュ先生はNHK交響楽団との共演でおなじみですが、音楽活動の拠点はミュンヘンでした。彼がバイエルン州立歌劇場の音楽監督(または音楽総監督)を務めていたころ、ミュンヘンにはもう一人、セルジュ・チェリビダッケというレジェンドが君臨していました。この2人の音楽性の異なるマエストロが並び立っていた1980年代のミュンヘンの楽壇てどんな雰囲気だったんだろう、と思いを馳せることが、ときどきあります。あとアメリカではフィラデルフィア管弦楽団時代のサヴァリッシュへの評価が高いみたいです。
 このシューマンは歴史的名盤なのですが、今回改めて聴いても「素晴らしい」としかいいようがないですね。音がとても輝いているし、そしてオケが豊かに鳴っていて、その響きに安定感がある。

 

㊲ キリ・テ・カナワバーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)アンネ・ゾフィー・フォン・オッターメゾソプラノ)クルト・リドル(バス)フランツ・グルントヘーバー(バリトン)他 ハイティンク指揮シュターツカペレ・ドレスデン リヒャルト・シュトラウス:歌劇「ばらの騎士

open.spotify.com


 EMI原盤で「ばらの騎士」といえば第一選択はシュワルツコップなのですが、ここでは外してみました。この1990年録音はオッターがオクタヴィアン役(クライバーの伝説的公演にも同役で出演!)なのが目を惹いたので今回聴いてみたのですが、他にも多くの美点を持った、見過ごせない録音だと思います。まずはオケ。冒頭のホルンのフレーズがたまらなくカッコいい。素敵なのでもう一度聴きたくなる。そして劇の進行に伴いホルンが同じフレーズを吹いたところで「あ!」と思わずニコリとしてしまいます。ハイティンクの音楽作りも劇的だしリリカルなところもちゃんと押さえてる。キリ・テ・カナワは声で語る感じがいいですね。そしてクルト・リドルの芸達者っぷり!オペラなんですけど、演劇を聴いてるような気持ちにさせてくれます。

 

㊳ クレンペラー指揮フィルハーモニア管 モーツァルト交響曲

open.spotify.com


 オットー・クレンペラー(1885年生、1973年没)はフィルハーモニア管弦楽団との共同作業の評価が高く、EMI録音も殆ど全て同オケとの共演だったと思います。クレンペラーから何を選ぶか、となるとマーラー作品も捨てがたい(とくに「大地の歌」)のですが、ここではモーツァルトを。「こうしようか」「ああしようか」と奇をてらったところが何もない、竹を刀でスパーン!と割ったような潔さが音楽にありますね。

 

㊴ バルビローリ指揮ベルリン・フィル マーラー交響曲第9番

open.spotify.com


 次はサー・ジョン・バルビローリです。ああグロリアス・ジョン(←英国ではリスペクトを込めてこう呼ばれた)!あなたはなぜ、マーラーが得意なのにEMIには3曲しか正規録音を遺していないのか!…と嘆いても仕方ないのですが、ほんと「第5番」「第6番」「第9番」の3曲しかない。彼のマーラー演奏のライブ音源が続々と発掘されてCD化され結局「第8番」以外全部聴けるようになり、それらを聴く度に同じ嘆きのフレーズが脳裏をよぎるのです。
 ベルリン・フィルとの「第9番」はその中でも世評高い名盤と言われるもの。今となっては明晰でハイ・フィデリティな録音も多くなったけど、バルリローリのマーラーには「情熱」がある。ただその「情熱」は、ただいたずらにオケをあおるだけで発生する類いのものではありません。別の曲ですけどバルビローリのリハーサル風景を収めた動画がネットに落ちてますが、正直かなりしつこい(苦笑)。これだけネチネチやられるとオケはキツい…。でもこれくらい偏執的なまでに執着し、音作りを練って練って、それが積み重なった結果、「情熱」が生まれるのだと、バルビローリを聴きながら思ったりします。


㊵ フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)ジェフリー・テイト指揮イギリス室内管 ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲、2つのロマンス

open.spotify.com


 ドイツのヴァイオリン奏者「らしい」ドイツのヴァイオリニストとして、わたしが真っ先に思い浮かべるのがツィンマーマンです。技巧、解釈、音楽的に全ての局面で「安定」している。そしてそれが生む「安心」。これこそ名人芸だと思います。私まだ生で彼の演奏を聴いたことがないんです。終息したら聴いてみたい、そんな演奏家のひとりです。

 

【Teldec】


㊶ インバル指揮フランクフルト放送響 ブルックナー交響曲(全11曲)

open.spotify.com


 やっと「50選」のうち五分の四を消化し、残りはテルデックその他です。え?カラヤンから1枚も選んでないって?…気のせいですよきっと。
 テルデックといえばインバルのブルックナーです。演奏自体の世評はもちろん高いのですが、複数のヴァージョン(ノヴァーク版)が存在する楽曲で、より「レア」なヴァージョンを採ることでもブルクネリアンを喜ばせてきた指揮者です。最初のリリースは「第8番」の1887年版(いわゆるノヴァーク第1稿)でした。このレコードの日本盤のライナーノートは、あの宇野功芳氏でしたが、彼の文章はいつにも増してテンションが高く、ブルックナー新発見に接した喜びに溢れていました。ほんとここで全文引用したいくらいですが、著作権の問題があるので自重します。。。

 

㊷ クライネフ(ピアノ)キタエンコ指揮フランクフルト放送響 プロコフィエフ:ピアノ協奏曲(全5曲)

open.spotify.com


 ウラジミール・クライネフ(1944年生、2011年没)はネイガウス門下、チャイコフスキー・コンクール優勝(1970年)を経て、まさにロシア・ピアニズムの王道を歩んだピアニストでした。このプロコフィエフは強靱にして鮮烈、まさにプロコフィエフのコンチェルト演奏に相応しいものです。もうちょっと彼の演奏が録音で聴けると嬉しいのですが、どっかの放送局の倉庫に音源眠ってませんかね。。。
 ところで「ウラディーミル クライネフ」でエゴサーチすると、女性との2ショット画像が出てきます。この女性の名前はタチアナ・タラソワ。日本では浅田真央さんのコーチとして知られる、高名な元フィギュアスケート選手です。彼女はクライネフの未亡人です。

㊸ フランク・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)ジークフリート・パルム(チェロ)ピエール=ロラン・エマール(ピアノ)ジャック・ズーン(フルート)ハインツ・ホリガーオーボエマリー・ルイーズ・ノイネッカー(ホルン)ラインベルト・デ・レーウ指揮ASKO/シェーンベルク・アンサンブル、ジョナサン・ノット指揮ベルリン・フィル他 リゲティ・プロジェクト

open.spotify.com



 リゲティ・ジェルジュはハンガリー出身、他国では姓名をひっくり返し「ジェルジュ・リゲティ」と呼ばれることが多いです。このアンソロジーには、先日のベルリン・フィルのヨーロッパ・コンサートでも演奏された「ラミフィカシオン」も含まれてます。個人的に名曲だと思ってる「ヴァイオリン協奏曲」も当然収録。
 ところで別レーベルに「リゲティ・エディション」なる類似企画のセットものがありまして、どうやら「エディション」のほうが「プロジェクト」に先行してレコーディングされたようであります。「エディション」の方にはメトロノーム100個使用で有名な「ポエム・サンフォニック」や舞台作品「グラン・マカーブル」も収録されていて「エディション」と「プロジェクト」の両方合わせて、はじめてリゲティの全貌が見えてくる、という格好になっております。でどうして2つのレーベルに分けちゃったんでしょうか?という謎が残るのですが。。。

 

㊹ バレンボイム指揮シカゴ響 マーラー交響曲第5番

open.spotify.com


 Spotifyは放っておくと勝手にいろんな音楽を自動再生してくるわけですが、たまたま先日Spotify垂れ流しにしていたら不意にマーラー5番の第4楽章(アダージェット)が流れてきて「おいコレなかなかいいな…」と思いアルバム表示にしたら、バレンボイム&シカゴの演奏だったという。。。Spotifyでなかったら、もしかして今日まで聴かなかったかもしれない演奏です(苦笑)。でもシカゴ響のスーペルでマーヴェラスなサウンドが楽しめて、でもちゃんとマーラー演奏として聴けるところが素晴らしいと思いました。ところで冒頭のトランペット吹いてるの誰ですか?上手すぎなんですけど。


㊺ シュタイアー(フォルテピアノ) シューベルトピアノソナタ第16番、3つのピアノ曲D946

open.spotify.com


 アンドレアス・シュタイアーはドメニコ・スカルラッティハイドンの録音で好きになった鍵盤奏者です。テルデックに移籍してから収録したシューベルトピアノソナタ第16番」は、「暗い」曲の「暗い」演奏、というところが私のお気に入りです。このあとの3つのピアノ曲で、いかにもシューベルトな青白い音のポエジーが見事に表現されているところも良いですね。

 

㊻ プレガルディエン(テノール)シュタイアー(フォルテピアノ) シューベルト:歌曲集「冬の旅」

open.spotify.com


 シューベルトからもう1曲、「冬の旅」も好きな曲なのでチョイス。11年前に聴いた、プレガルディエンの「冬の旅」は貴重な音楽体験でした(当時の感想はこちら)。若さ故に没落し、在処を求めさまよい続ける人間が感じる孤独感と不安、そして幻覚。人間て、よりどころがないと不安になっちゃうものなんですよ。最近の日本のネット界を見てると、そう感じずにはいられません。

 

㊼ ブリュッヘン(リコーダー)レオンハルトチェンバロビルスマ(チェロ) ヘンデル:リコーダーのためのソナタ

open.spotify.com


 フランス・ブリュッヘン(1934年生、2014年没)は、革命的ともいえるほどにスパーク!ジョイ!なリコーダー演奏で人々を魅了した傑物です。彼のリコーダー演奏に感化されてリコーダーを吹くようになった人も少なくない、と聞きます。晩年は自ら結成した「18世紀オーケストラ」の活動でも知られています。
 私的にブリュッヘンといえば、ヘンデルソナタです。津田蓄音機店という京都・出町にかつてあったレコード店で手に入れた中古LP。針を落として流れるのは、あまりにもシンプルな音楽。それこそ豆腐のように、大事に扱わないとこわれてしまいそうで、でも大事に扱いたくなる。そんな愛おしさを感じる曲であり、演奏でした。
 その音源は実は、SEONレーベル(いまはソニー傘下)のものなので代わりに(失礼!)ワーナーにもあるヘンデルソナタにリンクさせてください。こちらも素晴らしいものです。ブリュッヘンレオンハルトビルスマ……今はきっと天国でもトリオを組んでいて、時々アーノンクールに絡まれたりしてるんだろうな…と夢想してます。

 

【その他】

㊽ 舘野泉(ピアノ) パルムグレム:ピアノ作品集【FINLANDIA】

open.spotify.com


 いよいよあと3つを残すのみとなりました。え?アーノンクールが出てないって?たぶん気のせいでしょ。
 舘野泉さんは日本を代表するピアニストの一人。病を得て左手だけで演奏する「片手」のピアニストとなってからの活躍が有名ですが、「両手」時代の録音も看過できません。セリム・パルムグレン(1878年生、1951年没)は、そのリリカルな作風で「北欧のショパン」と称された作曲家。彼の音楽の美質を、舘野さんは最良なかたちで表現していると思います。Kiitos!(キートス!:「ありがとう」の意味)。
 


㊾ ハッキラ(フォルテピアノ) モーツァルトピアノソナタ全集【FINLANDIA】

open.spotify.com


 このトゥイヤ・ハッキラのモーツァルト、わたし初発時からずっと慣れ親しんでいる録音なのですよ。自然体、ナチュラルなところが大好きなんですけど、でもあまり評判にならないのが残念です。というか皆さんモーツァルトピアノソナタは何を聴いているのでしょうか?デイム・ミツコ・ウチダ(内田光子)?リリー・クラウスワルターギーゼキング?それとも藤田真央?え?グルダ?じゃあしゃあない(笑)。

㊿ グルダ(ピアノ、指揮)ミュンヘン・フィル モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、同第26番【MPhil】

open.spotify.com


 グルダモーツァルト!これこそ「天才 meets 天才」。フリードリヒ・グルダ(1930年生、2000年没)がモーツァルトを弾くのなら間違いない!!ぶっちゃけグルダってモーツァルトの生まれ変わりちゃうん!?と思いつつ音源を耳にしたら、そのとおりでしたすみません<(_ _)>
 更に。「グルダモーツァルト」といえばソナタを聴かずにはおられないですよ。別レーベルですけどリンクしときます。


 以上ミッション・コンプリート!御拝読ありがとうございました。