ワーナークラシックスの膨大な音源から、更に色々と聴いてみて選んでみた(その2)

その1」からの続きであります……

 

⑥ 役者揃いも揃ったり。「トゥーランドット」歴史的録音

ビルギット・ニルソンレナータ・スコット(ソプラノ)フランココレッリ、アンジェロ・メルクリアーリ(テノール)ボナルド・ジャイオッティ(バス)モリナーリ=プラデッリ指揮ローマ歌劇場管&合唱団 他 プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」 【旧EMI】

 

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(1965年 ローマ歌劇場にて収録)


 劇中のアリア「誰も寝てはならぬ」がとりわけ有名な「トゥーランドット」です。求婚した者に謎をふっかけ解答できなければ即斬首、という非情をくりかえす姫の心を、異国からやってきた若者が愛の力で溶かしていく、というストーリーは作曲されたのが第1次世界大戦後の1920年代だということを考慮すれば、暴力と闘争に満ちた世界を愛で変えていこう、というロマンティックな願望の発露とも思えなくもありません。またプッチーニがこのオペラに付けた音楽は不協和音が頻出する刺激的なもので、当時のアヴァンギャルドな作曲家のスタイルを取り入れたものだ、とも言われることがあります。そんななかで「誰も寝てはならぬ」の甘美な旋律がふわ~っと出てくると、それがものすごく効果的にハマるのでしょう。
 このオペラは圧倒的に力強い高音域を有する女声(トゥーランドット)、圧倒的に輝かしい声を持つテノール(カラフ)、そして圧倒的にエモーショナルな女声(リュー)を必要とします。劇に出てくる「3つの謎」ではないですが、その「3つの条件」を満たす名盤として知られるのがこのモリナーリ=プラデッリ盤。第2幕のアリア「この宮殿の中で」はニルソンの声にコレッリの声が乗っかって、そこからさらにニルソンが追い打ちをかける、というところがいつ聞いてもたまりません。またプッチーニ的感傷的自己犠牲たるリューを演じるレナータ・スコットも「氷のような姫君も」などの聴かせどころで、彼女の個性を存分に発揮しています。

⑦ 渋いアスペレンの「平均律

ボブ・ファン・アスペレン(チェンバロ) バッハ:平均律クラヴィーア曲集 【旧EMI】

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(1987年2月、同年4月 ハンブルクにて収録)


アスペレンのチェンバロはいくつかの録音で耳にしているのですが、この「平均律」はワーナー音源を探訪していく中で今回初めて聴きました。冒頭から、派手さはないもののバッハの記した音符を着実に音に刻んでいく作業の誠実さに惹かれていきました。各楽曲のキャラクターが淀みなく表現されていて、それが違和感なく胸にすっと入ってくる、その感覚が心地よいです。アスペレンのバッハは「イギリス組曲」もいいですね。レーベルは「鰤箱」との俗称で知られるブリリアント・クラシックスですが。


⑧ 華麗なるスコット・ロスのバッハ

スコット・ロスチェンバロ) バッハ:パルティータ(全6曲) (「バッハ鍵盤作品録音集」から) 【ERATO】(→録音データなど詳細は公式サイトへ)

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 スコット・ロス(1951年生、1989年没)のチェンバロ演奏は、ひとことで言えば「華麗」。芳香を放ちながら音がエネルギーを伴って現れるような、そんな輝かしさを持っています。この「パルティータ」はロスの演奏の特徴が一番現れている録音だと思います。これを初発時に聴いた私は、「どうしてこんなに美しいんだろう」「こんな風にバッハを弾いてもいいんだあ」とすっかり魅了されてしまったことを憶えています。彼がHIV感染症で亡くなったことを知ったのはこれを聴く前だったか後だったか定かではありませんが、それを聞いたときはかなりショックだったのも憶えています。

⑨ これが録音に遺っていて本当に良かった。日本フィルの歴史的録音

潮田益子(ヴァイオリン)小澤征爾指揮日本フィル ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 (「エリザベート王妃国際音楽コンクールの受賞者たち」から) 【旧EMI】

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(1971年6月20日&21日 杉並公会堂にて収録)


 潮田益子(1942年生、2013年没)さんは生前サイトウ・キネン・オーケストラの舞台には高頻度で登場されておられたので、そこでの活躍が個人的に強く印象に残っているのですが、エリザベート王妃国際(1963年、第5位)チャイコフスキーコンクール(1966年、第2位)などの輝かしい受賞歴を持つと共に、国内外でソリストとしても活躍されておられました。そんな時期に英EMIのスタッフが来日して杉並公会堂で行われた録音がこれです。潮田さんのヴァイオリンはピンとした張りがあって堂々とオケと渡り合っています。そして共演の日本フィルも実に素晴らしい。小澤さんの手腕もあるのでしょうが、いい響きしてますし輝いてます。この時期の同フィルの録音がEMIにあってホントによかった、と思います。

⑩ チェコスロバキア吹奏楽団によるスーザのマーチ

ルドルフ・ウルバネク指揮チェコスロバキア・ブラス・オーケストラ スーザ:マーチ集 【Nonesuch】

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 共産党時代のチェコスロバキア吹奏楽団によるスーザのマーチ、しかもレーベルがアメリカのノンサッチ、というなんかミステリアスな録音です。しかし演奏はいいですよ。各奏者の音の発音がしっかりしていて、それが積み重なってシンフォニックな仕上がりになってます。一音一音堅実な音作りで、ひところでいえば実にまじめなスーザ。でも楽しい!自然と笑顔になります。