ワーナークラシックスの膨大な原盤から、なんとなく50タイトル選んでみた(前編)

 最近ワーナーミュージック・ジャパンのクラシック部門がTwitter上で「ワナクラ中人選」シリーズなるツイート連投をしていて、それが案外(といっては失礼なのですが)面白くて、「ああ、こんなのもワーナーなのですね」「え、これも今はワーナーなの?」「そもそもEMIのタイトルなのにワーナーのロゴが付いてるのが慣れない…」などと時の流れを痛感しながら脳内が刺激されてしまったわけでして。。。いわゆる「インスパイアされた」と申しましょうか、私もワーナーミュージックが現在扱ってる原盤からセレクトしてみることにしました。ステイホーム週間に丁度良い課題かな、と思いやってみました。
 50タイトル中前半は旧ヴァージン・クラシックス、ノンサッチ、エラートから25タイトル、後半は旧EMI、旧テルデック他から25タイトルの紹介となります。まずは前半。

 

 

 

【旧Virgin Classics】

① プレトニョフの「展覧会の絵」(※クセあり)

プレトニョフ(ピアノ) ムソルグスキー展覧会の絵チャイコフスキー:「眠れる森の美女」組曲、6つの小品作品21、「四季」

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 ミハイル・プレトニョフはまだソ連があった時代にNHK教育テレビで来日公演を見たのが最初でしょうか。その番組内インタビューの受け答えが「なんか煮ても焼いても食えない」感じというか、なんかクセのある人だなあ、と思いながら見ていた記憶があります。1989年収録の「展覧会の絵」もクセがありますね。あちこちに「え!?」と引っかかるところがあって、この異形の名作の持つエキセントリックなところが数割増しになっている印象です。一方そのあとのトラック、彼自身の編曲による「眠れる森の美女」は掛け値無しにすばらしいですね。編曲によってオリジナルの美点が減ずることは皆無。まさにチャイコフスキーの音楽そのものだし、ピアノ曲としても魅力的。

② アンスネスグリーグ (※叙情性あり)

アンスネス(ピアノ)キタエンコ指揮ベルゲン・フィル グリーグ:ピアノ協奏曲 他

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 若き日のレイフ・オヴェ・アンスネスによる、フレッシュかつリリカルなグリーグのコンチェルトは1990年の収録。この2年後の2月ベルリン・フィルと初共演したときも同曲を演奏している。そのときの指揮はネーメ・ヤルヴィ。蛇足ですが、そのコンサートの前プロはステンハンマル「エクセルシオール」、後プロ(メイン)はニールセン「交響曲第2番」という、オール北欧プログラムでした。NHK-FMでかつてオンエアされていて、グリーグもよかったんですけど、ニールセンが素晴らしかった!あの演奏、また聴けないでしょうか。。。

 

③ アンサンブル・ソネリー バッハ:音楽のささげもの

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 一時この演奏をヘビロテしてました。まず録音がよくて、響きをよく取り込んだふんわりとした感じが、この曲の持つ神秘的な雰囲気に合致してます。モニカ・ハジェットら、各奏者の奏でる豊かな音も素晴らしい。これは「ワナクラ中人選」にもセレクトされてますね。

 

④ マッケラス指揮のシューベルト

 マッケラス指揮エイジ・オブ・エンライトゥンメント管 シューベルト交響曲ハ長調D944「グレイト」他

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 私が「50選」をやろうと思って真っ先に探したのが、「サー・チャールズ・マッケラスベートーヴェンは果たして配信に上がってるだろうか?」ということでした。1990年代の英EMIには新譜なんだけどミッドプライス(廉価盤)の価格でリリースされるブランド「Classics for Pleasure」というのがありまして、そのシリーズの一環で発売されたマッケラス&ロイヤル・リヴァプール・フィルのベートーヴェン交響曲全集(→画像)がなかなかの出来なのです。マッケラスは名ピアニスト、アルフレート・ブレンデルの最終公演の共演相手を務めるほどの実力者なので、私のような素人が「なかなかの出来」と申し上げるのは失礼千万なのではありますが、「廉価盤のわりには」という意味以上でも以下でもないのでご容赦を。彼のベートーヴェンは全曲ではないですが数曲サブスクで聴けます(「第3番」の押しの強さには驚かされます)。
 でサブスクで聴けるマッケラス他に無いかな…と探してみたら見つかったのが英ヴァージン原盤のシューベルトでした。このなかで「グレイト」は、古楽器オケで、古典派の楽曲を、古楽器の魅力を損なうことなく演奏するにはどうしたら良いか、という問いへの最適解があるように思われます。すべてがスムーズで、響きがクリアで、楽器間の音の重なりも有機的で実に魅力的です。これを聴くと「どうして現在主流のいわゆる『ピリオド奏法』はこっちの方向に行かなかったんだろう…」という思いを強くするのであります。なお併録の「交響曲ロ短調」(いわゆる「未完成交響楽」)はニューボールド補筆完成版による演奏です。

⑤ プロコフィエフ「3つのオレンジへの恋」

ミシェル・ラグランジュ、カトリーヌ・デュボスク(ソプラノ)ジャン・リュック・ヴィアラ、ジョルジュ・ゴーティエ(テノール)ジュール・バスタン(バス)ナガノ指揮リヨン歌劇場管他 プロコフィエフ:歌劇「3つのオレンジへの恋」(フランス語歌唱)

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 ケント・ナガノの指揮者としてのキャリア初期にリリースされたもの。反リアリズムというか、シュールなストーリーを持つ作品なので、ここはひたすらプロコフィエフの刺激的な音楽の世界に没頭するつもりで耳を傾けるほうがいいかと思います。おもちゃ箱をひっくり返したかのように、次から次へといろんな音楽、バラエティに富んだ破天荒な音楽が溢れ出てくるのですから。

⑥ スークの管弦楽曲

ペシェク指揮ロイヤル・リヴァプール・フィル スーク:交響曲「アスラエル」他

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 わたしが音楽に興味を持ち始めた1980年代、「ヨゼフ・スーク」といえば名ヴァイオリニスト(1929年生、2011年没)のことでした。レコードなどで彼のプロフィールを読むと「ドヴォルザークの曾孫、同姓同名の作曲家の孫」と書いてあるのが常なのですが、ちょうどその頃はLPからCDにメディアが切り替わる時期で、手軽に入手できるチェコクラシック音楽といえばドヴォルザークか「わが祖国」か、といった状況でした。それゆえ「ドヴォルザークはともかく、スークの祖父ってどんな作曲家?」と首を捻るばかりでした。そんな中リリースされたのが、ベルリンの壁崩壊の2年前(1987年)からリヴァプールのシェフだったチェコ人、リボル・ペシェクの指揮する「アスラエル」でした(1990年収録)。このCD録音はイギリスでそれなりに評判となったようで、ペシェクは1992年には「人生の実り」、1994年に「夏物語」、1997年に「おとぎ話」「エピローグ」と続けて録音していきます。スーク作品のリリースはその後も徐々に増えておりますし、チェコ出身の若手注目株の指揮者ヤクブ・フルシャが日本を含む世界各地で盛んに演奏してることも相まって、スークの曲は今後コンサート・レパートリーに組み込まれそうな予感がします。


⑦ またいつか生で聴きたい。ミシェル・コルボのレクイエム

コルボ指揮ローザンヌ器楽・声楽アンサンブル モーツァルト:レクイエム、フォーレ:レクイエム他

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 ミシェル・コルボといえば「ラ・フォル・ジュルネに出演してくれる大御所指揮者」というイメージを抱く人は少なくないかもしれません。少なくとも私はそうです。有楽町では2009年のバッハ「マタイ受難曲」がとても印象的だったのですが、2007年に聴いたフォーレも素晴らしかったです。ラ・フォル・ジュルネの観客はファミリー層が多くて、良くも悪くもにぎやかところが特徴なのですが、当時こんなコトをmixiに(!)書いてました…
 「レクイエムの演奏が始まるともうのっけからさっきまでの都会の喧騒とは別世界。まさに宗教的で清らかなムードで音楽が進んでいった。サンクトゥスやイン・パラディスムの出だしなんかまじでヤバかった。最初のうちはあちこちで聞こえた子供たちの「ばぁ~」も最後には止み、演奏後はしばしの静寂に包まれてました」
 ストリーミングを聴きながら、実演の思い出に浸ってました。この盤はフォーレが1992年収録。モーツァルトは1995年収録です。
……といいつついろいろ調べてたらこの1992年録音のフォーレ、初発時はfnacレーベル名義でリリースされてたのですね。。。ヴァージン名義ではありませんでした。本来なら「その他」扱いにすべきですが、ああどうしよう…。もういいか。どうかご容赦くださいませ。。。

 

【Nonesuch】


⑧ 晩年のホルショフスキのアルバム

ホルショフスキ(ピアノ) モーツァルト:幻想曲ニ短調K397、ショパン夜想曲(2曲)、ドビュッシー:ベルガマスク組曲ベートーヴェンピアノソナタ第2番

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 ミエチスワフ・ホルショフスキ(1892年生、1993年没)の1987年の初来日、そして(今は残念ながらコンサートホールとしての機能を停止している)カザルスホールでのライブは、当時95歳だったこともあり、随分話題になったものです。この録音も同時期に収録されたものなのですが、音楽の「フォルム」が定まっていて堅固なのが印象的ですし、モーツァルトショパンドビュッシーベートーヴェンと時代も国も異なる作曲家の個性、曲の個性が着実に音となって表現されているというのも素晴らしい。もっと素晴らしいのは、今これをタイプしながらホルショフスキの弾く「ハンマークラヴィーア」を聴いているのですが、この1951年録音と80年代録音とで、全然ピアニストとしての個性に変化がない、そんな揺るぎのなさが素晴らしい。


⑨ リチャード・グード(ピアノ) ベートーヴェンピアノソナタ全集

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 そんなホルショフスキにカーティス音楽院で学んだリチャード・グードです。今まだホルショフスキのベートーヴェン聴きながらタイプ中ですが、こうやって耳を傾けているとホルショフスキとリチャード・グードって地続きというか、語り口が似てますね。淡々と、しかし着実に音楽は進んでいく、みたいな職人技的なところが。すでにこの全集、世評が高いので改めて私が云々することはそんなにないかな。でもエゴサーチしてみたら矢野顕子さんもリチャード・グードのベートーヴェンをツイッターで褒めてたんですってね。サー・アンドラーシュ・シフも好きみたいです(→参照NYタイムズ紙)し、同業者に「推し」が多いというのは興味深いところですね。


⑩ ビルスマとビルソンのベートーヴェン

ビルスマ(チェロ)ビルソン(フォルテピアノ) ベートーヴェンチェロソナタ集2

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 アンナー・ビルスマ(1934年生、2019年没)は1989年来日の折、マルコム・ビルソンとのデュオでベートーヴェンチェロソナタをライブで披露していました。その演奏はNHK-FMで放送され、私もそれをエアチェック録音したものをずっと聴き続けてきました。ノンサッチ盤は同時期(作品5の2曲は1986年、残り3曲は1989年)の収録。まさに安定のビルスマが聴けます。後年ベートーヴェンインマゼールとレコーディングし直してますが、ビルソンとのデュオも全然悪くないです。ただSpotifyでは作品5の2曲が見つからないです。ナクソス・ミュージック・ライブラリーにはあるのですが…。とりあえず「第3/4/5番」にリンク貼っておきます。

 

⑪ テレサ・ストラータス(ソプラノ)「知られざるワイル~クルト・ワイル歌曲集」

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 クルト・ヴァイル(1900年生、1950年没)は本当に興味深いプロフィールの持ち主です。交響曲からミュージカルまでという作曲リストの幅広さ、ベルトルト・ブレヒトからアイラ・ガーシュインまで、コラボした人物も多彩。ヴァイル存命中に彼の曲に触れ演奏したアーティストも、ブルーノ・ワルターからダニー・ケイまで、バラエティに富んでいます。激動の20世紀をしたたかに生き抜いた、まさに「20世紀的」作曲家といえるでしょう。
 テレサ・ストラータスはオペラ歌手ですが、彼女が重要なキャストとして出演した「マハゴニー市の興亡」メト公演を観た作曲家未亡人にして所謂「ヴァイル歌い」のレジェンドであるロッテ・レーニャが彼女を激賞した(→参照)のを契機に、彼女もまた「ヴァイル歌い」としてのキャリアを歩むことになります。レーニャから託された元夫の楽譜を元に1981年にレコーディングされたのが、この「知られざるワイル」でした。
 収録曲で私のお気に入りは「マーゲイトの貝殻」(別名「石油ソング」とも)。海辺の村が石油採掘により変貌し、さらに石油メジャーに呑み込まれ…という歌詞。たびたび登場する決め台詞の「シェル!シェル!シェル!」て絶対某石油会社をイメージしてますよね(苦笑)。

⑫ グレツキ交響曲第3番」

ドーン・アップショウ(ソプラノ)ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタ グレツキ交響曲第3番

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 ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933年生、2010年没)もある意味「20世紀的」作曲家かもしれません。元々ルトフワフスキ、ペンデレツキ(先日逝去されましたね。残念です…)らと並びポーランド現代音楽を代表する作曲家であったグレツキが、「新ロマン主義」とも言える協和音中心の作風へと変化した時期の作品が「交響曲第3番」。1977年にエルンスト・ブール指揮で初演されていますが、初演時は酷評だったようです。前述のペンデレツキもズビン・メータ指揮ニューヨーク・フィルにより1980年に初演された「交響曲第2番」あたりからメロディアスな作風へと転換しているので、これは当時のポーランド楽壇のトレンドだったのかもしれませんが。。。
 それでもこの作品の持つ悲劇性と、透明感あるサウンドに惹かれた人物がいました。ヨーロッパの映画関係者を始めとする、いわゆる「エンタメ業界人」たちです。彼ら彼女らがこの作品を映画やビデオのBGMに使い始め、少しずつ人々の耳に届くようになります。やがて欧米のクラシック音楽系ラジオ局、特に1992年9月に開局した英Classic FMが開局第1週にオンエアし、さらにヘビーローテーションされたのを契機に広く認知されるようになります。デイヴィッド・ジンマン指揮によるノンサッチ盤は70万枚という、レコード不況の現代では握手券や特典込みでも到底出せないセールスを叩き出しました。この大ヒットはグレツキの人生も変えました。昔「グラモフォン」誌(イギリスのクラシック音楽情報誌)に掲載されたインタビュー(同誌1993年4月号)で「車がベンツになった」「今の夢は山の中に作曲が出来る小さな家を持つこと」などと語っていました(6/14追記:インタビュー記事を見つけたので実際の誌面に合わせるべく修正いたしました)。

⑬ ライヒ「ディファレント・トレイン」

クロノス四重奏団、パット・メセニー(ギター) ライヒ:ディファレント・トレイン、エレクトリック・カウンターポイント

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 現代アメリカを代表する作曲家スティーヴ・ライシュ(日本では「ライヒ」と呼ばれるのが一般的なので、以下「ライヒ」で行きます)は1936年生まれですから……現在御年83歳ですか!いつの間に!「コバケン」こと小林研一郎さんが先月卒寿を迎え80歳になった、と聞いたので「えええー、ライヒてコバケンより年寄りなの~~」と軽く驚かせてください。
 さて、「18人の演奏家のための音楽」(1976年初演)で知られるライヒが、ユダヤ人としての自らのルーツを見つめ直し、別々に暮らす父母の間を列車で行き来していた幼少期の記憶を題材に、「もしその時代に自分がヨーロッパに居たら、自分は違う列車、収容所行きの列車に乗せられていたかも……」という思いを込めて書いたのが「ディファレント・トレイン」(1988年作曲)。曲を構成するのは弦楽四重奏による生演奏と、事前にインタビューされた人々の声の断片を記録したテープ、そして汽笛の音(これもテープ)です。ライヒ的な音のパルスの上に人の声が乗っかり、それを弦楽器が模倣する、という作曲技法が、このディスクがリリースされた当時とても斬新に感じたのを憶えています。

 

⑭ アダムズ「ニクソン・イン・チャイナ」

トルディ・エレン・クレイニー、マリ・オパッツ、キャロラン・ページ(ソプラノ)マリオン・ドライ、ステファニー・フリードマンメゾソプラノ)ジョン・デュイカーズ(テノール)ジェイムズ・マッダレーナ、サンフォード・シルヴァン(バリトン)トマス・ハモンズ(バス)デ・ワールト指揮セント・ルークス管&合唱団 アダムズ:歌劇「ニクソン・イン・チャイナ」

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 ジョン・アダムズはノンサッチ・レーベルと関係の深い作曲家ですね。近作「ドクター・アトミック」のスコアは同レーベルの初代社長であるロバート・ハーウィッツ氏に献呈されています。
 「シェーカー・ループス」など、ライヒミニマル・ミュージックで作曲家としてのキャリアをスタートさせたジョン・アダムズが、オペラ作曲家として活躍するきっかけとなったのが1987年ヒューストンで初演された「ニクソン・イン・チャイナ」。エト・デ・ワールト指揮によるノンサッチ盤にも、初演時のキャストが名を連ねています。ニクソン大統領の訪中、という政治的事件を下敷きに別のストーリーが展開するのでなく、ニクソン訪中「そのもの」をオペラ化する、という大胆なシノプシスは初演当時「CNNオペラ」と揶揄されたりもしましたが、以後上演を重ね、最近ではメトロポリタン歌劇場の舞台にも乗りました。
 このオペラ音楽の特徴は、いささかの皮肉込みのユーモアにあると思います。劇中ニクソンが歌うアリア「News has a kind of Mystery」は「ニュース!ニュース!ニュース!」の連呼で始まり「ハーズァ!ハーズァ!」の反復、そして「♪ミーステリ~~~イイ~~~イイ」と唐突にオペラティックな節回しという、なかなかコミカルなものです。こりゃ最初聴いた人は戸惑ったでしょうね……。江青女史のアリア「I am the wife of Mao Tse-tung」も大仰すぎて面白いです。

 

【Erato】

⑮ スラヴァと小澤のドヴォコン

ロストロポーヴィチ(チェロ)小澤征爾指揮ボストン響 ドヴォルザーク:チェロ協奏曲他

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 エラート・レーベルといえば、かつての独立系クラシック音楽レーベルの雄、やがてワーナーと合併しレーベルとして一旦消滅したものの旧ヴァージンのアーティストを加えてリブランドし、現在は同社のクラシック部門の代表的存在、という理解でよろしかったでしょうか?ただ私的には「エラート」=「フランスのレコードレーベル」という固定観念が未だ払拭できてないのでありますが。
 で最初が「スラヴァ」の愛称で知られるムスティスラフ・ロストロポーヴィチ独奏による、これまた「ドヴォコン」と愛好家の間で呼ばれるドヴォルザークのチェロ・コンチェルトです。フランス人アーティストによる、フランスのレパートリーで知られたかつてのエラート・レーベルの中ではやや異色かもしれませんが、壮年期のスラヴァによるドヴォコン(1985年収録)、というのが貴重なので。

 

⑯ ミシェル・ルグラン(ピアノ) アメリカン・ピアノ・ミュージック

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 先日亡くなったジャズ・ミュージシャン、ミシェル・ルグランも、エラート・レーベルに幾枚かの録音を遺しています。サティの作品集や、いつかどこかのラジオで聴いたようなライト・ミュージックを集めた「ハッピー・ラジオ・デイズ」もいいのですが、このアメリカ・ピアノ音楽のアンソロジーはゴーチャーク(ゴットシャルク)からスコット・ジョプリンガーシュインからジョン・ケージまでという、幅広い楽曲が一枚で聴けるというのが何かお得感あります。ルグランのピアノも「さすがコンセルヴァトワール出身」と思わずにいられない達者ぶりです。

 

⑰ ガーディナーパーセル

ガーディナー指揮イングリッシュ・バロック・ソロイスツ&モンテヴェルディ合唱団 パーセル:「メアリー女王のための音楽集」

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 今も現役バリバリの指揮者サー・ジョン・エリオット・ガーディナーですが、彼が楽壇から注目されるきっかけとなったのがパーセル作品の演奏だった、と大昔NHKラジオで語っていたのは磯山雅さんでした。ガーディナーが初来日(1989年)のときに演奏していたのが収録曲「メアリ女王の葬送音楽」。太鼓とラッパの重々しい響きと調べが、ラジオでオンエアされた時に深く心に残りました。

 

⑱ グリモーとザンデルリンク、手に汗握るブラームス

グリモー(ピアノ)クルト・ザンデルリンク指揮シュターツカペレ・ベルリン ブラームス:ピアノ協奏曲第1番

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 エレーヌ・グリモーが当時の楽壇の重鎮ザンデルリンク率いるオケと互角以上に渡り合い、過去のピアノの巨人たちもさぞや、と思わせる重厚なピアニズムで最後まで耳をつかんで離さない、というこのアルバム。それ以前グリモーに勝手に抱いていたイメージからは想像もつかない仕上がりに、とても驚いたものだ。

 

⑲ フォーレのヴァイオリンソナタ、好きです。

アモイヤル(ヴァイオリン)ケフェレック(ピアノ) フォーレ:ヴァイオリンソナタ第1番、第2番

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 フォーレのヴァイオリンソナタ、とくに「第1番」が好きなので挙げてみました。「第1番」て、ヴァイオリンが入るまでのピアノのイントロがいいんですよ。ピアノの音を聴いているうちにどんどん切なくなってくる、期待に胸膨らんでいく……そんな心に直接訴える素晴らしい出だし。この箇所でのケフェレックのピアノが実に素晴らしい。アモイヤルが登場する前から胸熱になります。もちろんそのあとのヴァイオリンも切ないです。


⑳ プレートル指揮ウィーン交響楽団 サンサーンス交響曲第2番、第3番

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 ジョルジュ・プレートル1924年生、2017年没)は実に長く輝かしい演奏家キャリアの持ち主。オペラハウスやコンサートホールでの豊富な経験を経て、最晩年にはウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの指揮者を務めるまでになった人物です。2008年と2010年の2回の新春公演は、今思いだしてみても「なにより聴いててとても楽しかった!」ということに尽きます。
 そんな彼はウィーン交響楽団との共演歴が長く、それがウィーン・フィルとの仕事に繋がった、とも云われています。プレートルとウィーン響はマーラーなどのライブ盤もありますので、興味ある方はどうぞ探してみてください。ここで取り上げたサンサーンスがまた、音楽が躍動していて素晴らしいです。彼のように、聴いていて元気になる音楽家っていいですね。存在が尊い

 

㉑ ルーセルのカルテットも好きです。

ヴィアノバ四重奏団 ルーセル弦楽四重奏曲(「ルーセル・エディション」から)

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 ルーセル弦楽四重奏曲が好きなので、強引に選んでみました。対位法的進行の第4楽章が、いかにもカルテット!て感じで、実に渋くて苦い。だがそこがカルテットの良いところ!ですね。リンク先はエラートの豊富な音源を集めた「ルーセル・エディション」にいたしましたが、このジャケ写、「絶対に笑ってはいけないジャケ写」クラシック部門で第4位くらい、オールジャンルでも32位くらいには入りそう。。。この画像「作曲準備でフィールドワークをするルーセル自身」ということらしく、出所としては至極真っ当なものなんですが……。

 

㉒ カルテット・アロドの新ウィーン楽派

 ウェーベルン:緩徐楽章、シェーンベルク弦楽四重奏曲第2番、ツェムリンスキー:同第2番

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 ここからはエラート・レーベルの比較的最近の新譜から幾つかチョイスしてみます。カルテット・アロドは泣く子も黙るミュンヘン国際コンクールで優勝!という輝かしい実績を持つ実力者たちです。メンデルスゾーンのディスクも既発ですが、私は新ウィーン楽派の作品を集めたこちらが好印象。シェーンベルクの2番て、爛熟しきった後期ロマン派的ムードで始まるのに、ソプラノ歌手が入ると曲調が怪しくなり、果てには無調に突入!という20世紀前半の音楽史を一曲で楽しめる興味深い作品ですので、もっと多くの演奏家に取り上げてもらいたいんですけどね。

 

㉓ エベーヌ四重奏団 「ベートーヴェンアラウンド・ザ・ワールド

ベートーヴェン弦楽四重奏曲全集

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 今やフランスを代表するカルテットであるエベーヌ四重奏団。今年はベートーヴェン生誕250周年のアニヴァーサリー・イヤーということを意識してか、去年からの世界ツアーのメインプログラムはベートーヴェン。それらの模様を収録したもの。

 現在のベートーヴェンのカルテット界における私の「推し」はベルチャ、デンマーク、エベーヌの三団体なのですが、おのおのが確固たる個性を持っているところが素敵であります。コリーナ・ベルチャ率いる強引なまでの「個性」がウリのベルチャ、音楽の芯がブレない「構築力」で聴かせるデンマーク、そしてエベーヌは音楽表現の「輝き」が魅力です。

 

㉔ ブラームスのピアノカルテットは好きですか?

ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)ジェラール・コセ(ヴィオラ)ゴーティエ・カピュソン(チェロ)ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ) ブラームス:ピアノ四重奏曲全集

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 ブラームスのピアノカルテットはお好きですか?私はほんと、いろんな演奏で聴きましたね。一番古いのはバリリのウェストミンスター盤、ルービンシュタインRCA盤も、ペライアアマデウス四重奏団の3人の「第1番」はホントよく聴きました。新しめのだとアックス、スターン、ラレード、ヨー・ヨー・マらによるソニー盤も。でエラートからは、同レーベルを代表するアーティストであるカピュソン兄弟にヴィオラのレジェンド、ジェラール・コセ、フランスを中心に活躍するピアニストのニコラ・アンゲリッシュが加わった全曲録音があります。聴いてみたらデリケートかつ繊細で、上記で挙げた他演奏では聴けない特徴を持ったユニークさが魅力ですね。とくにピアノのアンゲリッシュ。彼はもっと聴かれるべき存在ですね。フランスではリスト作品、たとえば「巡礼の年」とかをウェブラジオで聴いて技術の確かさに驚嘆したことがあります。

 

㉕ カウンターテナーの饗宴。その名は「アルタセルセ」。

フィリップ・ジャルスキー、マックス・エマニュエル・ツェンチッチ、フランコ・ファジョーリ、ヴェラール・バルナ=サバドゥス、ユーリィ・ミネンコ(カウンターテノール)ダニエル・ベーレ(テノール)ファソリス指揮コンチェルト・ケルン他 ヴィンチ:歌劇「アルタセルセ」

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 いずれ菖蒲か杜若、目移りするほどカウンターテノールのスターたちが勢揃い!カウンターテノール好きが益々カウンターテノールの「沼」にズブズブとハマっていくためにあるような音源。あらすじとか細かいところはとりあえず置いといて、まずはツェンチッチ!続いてファジョーリ様によるキレッキレのアリア!一人置いて(ダニエル・べーレすまん…)ジャルスキー!まさに配役どおり王子様が降臨したみたい!と続く第1幕のくだりを聴いて悦に入るのが吉。
 
 ご拝読ありがとうございました。前編終了です。後編一応構想中であります。。。