【再掲&一部改変】指揮者ノイマンの言葉

 サッカー男子元日本代表監督イビチャ・オシムの評伝「オシムの言葉」(著者:木村元彦)。 そこには旧ユーゴスラビアを代表する指揮官である彼の含蓄ある発言の数々が収録されています。 

オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える

オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える

 

 これらのいわゆる「オシム語録」は彼のサッカーを懐かしむサッカーオタクにとってキリスト教福音書のような存在となっているわけですが、私は彼の言葉の中に冷戦時代をくぐり抜けた東欧人特有の「体臭」を強く感じます。例えば「人気語録ランキング」で間違いなくベスト3に入るであろう「レーニンは『勉強して、勉強して、勉強しろ』と言った。私は、選手に『走って、走って、走れ』と言っている」という発言は、第2次大戦後の東欧で教育を受けた人でなければ出てこないでしょう。この一言に限らず、彼の談話にはユーモアが伴っていますが、そのユーモアを理解するには一定の知性が要求されます。そのような理知的な笑いは、旧ソ連アネクドートの数々と共通するものです。さて音楽界はどうでしょうか。ここで私が紹介するのはチェコの指揮者、ヴァーツラフ・ノイマン(1920-1995)の言葉です。

スメタナ:わが祖国

スメタナ:わが祖国

 


Dvořák: Symphony No.9 "From the New World" / Neumann Czech Philharmonic Orchestra (1993 Movie Live)

 

  ノイマンが手兵のチェコ・フィルと共に日本で演奏旅行をしていた1982年11月10日に、旧ソ連のブレジネフ書記長(当時)が死去しました。当時共産主義国家だったチェコスロバキアの政府関係者から「共産党のドン」への弔意を表すよう命じられたノイマンは、リハーサルを始める前にスピーチを始めました。「皆さんご起立をお願いします。労働階級の英雄にしてソビエト連邦書記長のブレジネフのために祈りましょう。我々はチェコ音楽に多大な貢献をされた偉大なる人物に対して敬意を表します」。そう言った後ノイマンは間髪入れずにこう言いました。「どうぞご着席下さい。彼はチェコ音楽に大した貢献をしていませんから」。これはジョークではなく実話です。しかしどこかアネクドート的で、風刺の利いたエピソードですね。
 この話の元ネタはノーマン・レブレヒト氏のコラム。

www.scena.org

 ノイマンの後にチェコ・フィルの音楽監督を務めたイルジー・ビエロフラーヴェクの証言でした。

 オリジナル (2006年7月8日)